起業して選んだビジネスが、なぜ小型電気自動車だったのか。
以前から伊藤氏は、今ある移動のあり方を変えられないのか、エネルギーの使い方を変えられないのか、生活スタイルと働き方を変えられないのかといった、社会システムの変革に関心があった。その答えの1つが誰もが気軽に乗れる、安心・安全の小型電気自動車だったという。
14年9月にrimOnOを創業。デザインは元トヨタ自動車のデザイナーでznug design代表の根津孝太氏が担当した。2回ほどのデザイン変更を経て、2年経たずしてプロトタイプが出来上がった。
ここまでは想定通りで、実際にモノを作ってしまえば世の中が動くだろうと思っていた。というのも、20年の東京オリンピックを控えて、大手企業でもモビリティ分野への関心が高く、それを社会実装するための制度はきっと整備されるだろうという期待があった。しかし、国は動かなかった。「今思えば考えが甘かったんですけどね」と伊藤氏は振り返る。その後のビジネス状況は先述した通りだ。
こうした経験をした伊藤氏は、経産省を飛び出して実感したことが3つある。
1つは、イノベーションは個々人の思いや熱量が不可欠だということ。rimOnOにかかわる人たちの多くは金儲け目的ではなく、新しいことにチャレンジしたい、面白いことを一緒にやりたいという思いでプロジェクトに加わったという。こうした熱量を持った人たちが連鎖するようにすればイノベーションは起こるのだという。
ただし、連鎖させるには夢だけ語っていても仕方ない。どれだけニーズがあるかどうかだ。望んでいる人がいないところで、「これはやるべきだ」といくら叫んでもうまくいかない。人々が望んでいることが分かり、それに合わせて自分が動いていけば、経済を含めてメカニズムは回っていくという。
加えて、周囲の協力も重要だ。「人間は夢中になると、自分がやりたいことだけを押し通そうとしますが、一歩引いて見ると、それを実現するには他人の協力が必要なのです。当然、ほかの人たちもやりたいことがある。だったら、彼らを助けてあげれば、自分がやりたいことも手伝ってもらえる可能性があります。rimOnOのことだけで突っ走るよりは、モビリティ全体の問題について考えている人たちを支援するべきです。そうして仲間が増えていけば、大きなことにトライもできます」。
2つ目は、理屈よりも直感が大事だということ。プロトタイプが最終的に現在のデザインになったのは、何よりも伊藤氏自身のテンションが上がるものを追い求めた結果だという。
「理屈とは、直感で分からないことを埋め合わせるためだけと僕はよく言っています。どれだけ後付けして説明しても、それで伝わるメッセージと、見たり触れたりして伝わるものでは大きな差があります。モノづくりも新しいサービスも、直感的に響いてこなければ良いものはできないと感じました」
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