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元楽天副社長が作る幼小中“混在校”の武器本城慎之介、軽井沢風越学園創設への道【後編】(5/5 ページ)

» 2018年10月15日 07時15分 公開
[井上理ITmedia]
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 「16年1月から考えると、その年の6月に僕と岩瀬が合意して、翌17年2月に風越学園を設立しますというプレスリリースを出し、18年6月には県に認可申請しました。申請から最短で開校できるタイミングが20年4月です。こんなにかかるのか、と思う人もいるかもしれませんが、教育業界では『とんでもなく早いね』と驚かれます」

 楽天を辞めてから約18年。森のようちえん ぴっぴで働いてから約11年後となる20年4月、ようやく本城の城が動き出す。だが、開校は本城らが抱く「夢」の始まりにすぎない。

学校運営から2032年に引退する

 風越学園はエリート育成を目的にはしていない。そのため、開成高校に何人、といった進学は成果の指標になり得ない。では、どうしたら「成功」となるのだろうか。ひとつは前述のように、卒業生35人が35通りの幸せな進路をたどること。その先に見据えるのは、本城らの取り組みが「ふつう」になることだ。

 「幼小中混在、そして一斉授業じゃなくて、一人一人の子どもに合った学習が同じ場所で展開されるという今は珍しいことが、いずれふつうになること。『新しいふつうをつくる』と表現していますが、いつか『きっかけは風越だったね』と評価されることが僕らにとっての成功だと思います」

 森の中の学校というと、引きこもりになったりドロップアウトしたりした生徒を受け入れるような、「都会の学校のオルタナティブ」を思い浮かべるが、風越学園はそうではない。寮を作らない、という選択がその意思の現れだ。

 最初は生徒の8割が地元・長野や軽井沢の子ども。残り2割が、わざわざ風越学園のために引っ越してくる子を想定している。ただし、引っ越し組の割合や生徒数を増やすことに興味はない。同じようなことを、全国の、しかも公立校が採用してくれることを願っている。

 「例えば東京都港区など、大都会で公立小学校に幼稚園が併設されているケースが多いのですが、みんな私立中学校に行っちゃう。でも、公立の幼小中として確立した方がカリキュラムもスムーズになるし、安心できるんじゃないかなと思っていまして。あるいは、教師不足に悩む中山間地域にも幼小中混在は有効な手段だと思っています」

 「僕らは今回、私立でやりますが、本当は公立でやりたかった。ですから、風越学園も将来的には公設民営という形や、地元自治体に引き取ってもらうような形で公立に転換できたらうれしい。そして、いろんな自治体から先生が移動してきて、風越で学んで帰っていくといった、全国の公立の新しいモデルとして認知されたら、そんなに幸せなことはない。それが夢ですね」

 教育の新しいあり方を提示し、公教育のモデルとなるような学校の設置を目指す本城。夢の実現に向け、残された時間は少ない。本城はかつて「30歳で楽天を辞める」と決意していたように、今回も「2032年度に引退する」と決めているからだ。

 「これは大事なことで、32年度末は、風越に幼稚園年少で入ってきた子たちが中3で卒業するタイミングなんです。その年に僕は60歳になる。やっぱり経営者の仕事って、次の経営者を育てること。僕はちゃんと自分で12年間をかけて、今の20代や30代を引き上げて、任せるようにしたい。それは僕の大きな願いというか、もうひとつの夢です」

 33年3月、果たしてどんな子がどんな進路をゆくのだろうか。風越はどんな存在になっているのだろうか。全国にも類を見ない挑戦の結果を早く見てみたい。(文中敬称略)

著者プロフィール

井上理(いのうえ おさむ)

フリーランス記者

1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業、日経BP社に入社。以来、IT・ネット業界の動向を中心に取材。『日経ビジネス』「日経ビジネスオンライン」「日本経済新聞電子版」などの記者を経て、2018年4月に独立。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式』(日本経済新聞出版社)、『BUZZ革命』(文藝春秋)。


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