待機児童問題は子どもがいる家庭だけの問題ではなく、国の将来にかかわる深刻な問題だと先に述べた。私の専門は金融や経済なのだが、国力の源泉は何かという問いへのシンプル答えは「人口」だと断言できる。もちろんその国の持つ資源や技術、文化も大いに関係するものの、人口が及ぼす影響とは比にならない。
PwCが17年2月に発表した『2050年の世界(The World in 2050)世界の経済力のシフトは続くのか?』によれば、50年の購買力平価ベースのGDP(国内総生産)ランキングを見てみると、上位5カ国は中国、インド、米国、インドネシア、ブラジルだ。これは2050年時点での人口ランキングとほぼ重なる。人口の多い国が上位にランクインしているのだ。
少子高齢化が進む日本は、何の対策もしなければ、国力が衰退するのは火を見るよりも明らかである。しかし私は、自身の子を預けるという今回の経験をへて、日本が少子高齢化の一途をたどる現在の状況も、ある意味当然というか、仕方のないことなのだと実感した。
なぜそう思ったのか。国のことを考えれば、子どもが生まれることは人口が増えることを意味するので、良いことだ。しかし、一家庭としての問題と捉えると、子どもが生まれることで、家族は多かれ少なかれ「待機児童問題」と向き合わなければならないのである(特に都市部では)。しかも、この「待機児童」という言葉の定義は曖昧で、母親側の応募が全て叶わず、仕方なく育休を延長した場合や、認可保育園には落ちて無認可保育園に入園できた場合などは、待機児童数から除外されている。そのため、実質的な待機児童はもっと多いといわれているのだ。
子どもができることで、各家庭にこのような試練を強いるとすれば、あえて子どもを作らないという選択肢を取る世帯も出てくるだろう。私もその気持ちは理解できる。なぜこれだけ深刻な問題に対してわが国は対策を怠ってきたのだろうか。
前述の通り、自宅勤務やフレックス制、時間単位で取得できる有給制度など、従来型の日本企業の働き方ではなく、これらの新しい制度を企業側がもっと取り入れれば、子どもを持つことにためらいを持たない世帯が今より増えるだろう。
働き方改革という言葉を耳にする機会は増えてきたが、働き手自身を主語とした内容がほとんどである。わが国の今後の行く末を鑑みたときに、働き手だけが主語になった改革では奏功しないのではないだろうか。子どもを含む家族がストレスなく生活するためには、どのような働き方を許容すべきなのか。このような観点を持った改革こそが必要だ。
日本で生まれ育った日本人として、50年後も100年後も日本が世界で存在感を示し続けられるよう、環境を変える流れが生まれることを期待したい。
森永康平(もりなが こうへい)
株式会社マネネCEO。証券会社や運用会社にてアナリスト、エコノミストとしてリサーチ業務に従事した後、複数金融機関にて外国株式事業やラップ運用事業を立ち上げる。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、各法人のCEOおよび取締役を歴任。現在は法律事務所の顧問や、複数のベンチャー企業のCFO(最高財務責任者)も兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。株式会社マネネ、Twitter。
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