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» 2018年11月09日 07時00分 公開

河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」:医師の命は軽い? 過労自殺を生み続ける“加害者”の正体 (4/4)

[河合薫,ITmedia]
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「医者の命だけは軽いのかもしれません」

 「せがれが過重労働とパワハラで、体調を壊してしまいましてね。特に患者の家族とのコミュニケーションには、ずいぶんとストレスを感じていたようです。

 確か倒れる半年くらい前だったと記憶していますが、患者さんの家族が来た時に、息子は他の病院の勤務日でいなかった。そしたら『何で担当医がいない。これじゃ、家族には親の病気の状態がどうなっているか分からないじゃないか! 勝手な治療は許さん。医者を呼べ!』って、怒り出した。チーム医療で他の医師が対応したのが、気に入らなかったんでしょう。その後も事あるごとにクレームをつけられるので、休日出勤させられたりしていました。

 ……真面目にやってきたのに、かわいそうで。『人の命は何よりも重い』と教育されてきたけど、医者の命だけは軽いのかもしれません」

 以前、インタビューした男性はこう話していました。

 彼の息子さん(34歳)は、某病院の勤務医。夜間の当直の後も、通常の勤務を行うのが日常茶飯事でした。そんなある日、電車の中で意識を失い、病院に搬送されたそうです。2週間後には退院しましたが、病院を辞め、自宅療養を続けています。

 人の命を預かる「責任」の重さ、過労死ラインを超える長時間労働、深夜勤務、患者や家族との人間関係……。その全てが、医師たちを追い詰めているのです。

 実は医師の過労自殺は一般の労働者より多く、これは世界的にも共通した傾向です。米国では一般の労働者の4倍ほど多く、デンマークでも、医師の自殺は看護師や教員など他の20以上の職種に比べて多いという調査結果があります。

 日本の医師を対象とした調査では、長時間労働と周囲からの要求の過度な高さ(責任の重さ、高い技術など)からうつ状態に陥ることが多いことが分かりました。その傾向は研修医のときが最も顕著で、ある調査では研修開始から1〜2カ月後には、4割近くが抑うつ状態になってしまうことも分かっているのです。

 私たちにとって、過労死や過労自殺は「関係ない話」ではありません。自分だけでなく、大切な家族、大切な友人、愛する恋人が追い詰められることもあるかもしれない。それと同時に、自分自身が「追い詰める側」になってしまうかもしれないのです。

 過労自殺をなくすために、私たちにできること。いま一度、考えてみてください。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)


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