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「転職バブル」は砂上の楼閣 “人間力”があればAI時代も怖くない「淡い幻想」は危険(1/5 ページ)

» 2018年11月14日 08時30分 公開
[森永康平ITmedia]

 「転職」は人生において重大なイベントだ。未来は誰にも予測できないため、転職後の自分を具体的に想像することはできない。だが、現職にとどまった場合、その会社で生きる自分の未来は、ぼんやりとは想像できるだろう。

 私は2018年6月に、金融教育に関わる会社を立ち上げ社長を務めているのだが、それ以前は、東証一部上場企業やベンチャー企業、外資系金融機関などで会社員生活を10年以上経験してきた。その間には転職を重ねているため、転職を考える人たちの悩みや不安な点はよく理解しているつもりだ。

 今の時代、転職をすることは昔に比べれば当たり前になってきた。転職に付随するサービスもさまざまなものが提供されている。企業側も終身雇用を保証するわけでもなくなってきて、新卒よりも中途採用によって即戦力として活躍できる人材を雇った方が、教育コストが減らせると考えるようになってきた。つまり需要と供給が共に増えたことで、「転職市場」は大きなマーケットとなったのだ。

 しかし、転職を考えている間、当人が取っている思考法やアクションには気を付けなくてはいけない。今回はいくつかの事例を用いながら、転職の是非を検討してみたいと思う。

photo 転職の際に気を付けなければならないポイントとは?(写真提供:ゲッティイメージズ)

押し寄せる「自動化の波」がもたらす悩み

 偶然かもしれないが、最近転職の相談を受けたケースのほとんどが、銀行に勤務している20〜30代の若者からだった。銀行といえば一般的には給与も高く、安定した印象がある業種だと思うが、実際にその組織の中で働いていると、将来に不安を覚えることも多いようだ。

 銀行で働く若者が抱く不安の理由の一つが、ある調査から垣間見える。日本経済新聞社が10月14日にまとめた2019年度の採用状況調査だ。主要企業の大卒採用の内定者数 (19年春入社)は8年連続で伸びている一方、銀行の内定者数に限ってみると18年春の入社実績比で16.1%も減らされたのである。

 記事中では、育児休業後に職場復帰をする女性が増えたことや、事務作業が自動化されていることなどが理由として挙げられていた。筆者が聞く彼らの不安も、主に後者の「事務作業の自動化」と関連する理由がほとんどだった。つまり、彼らが現在携わっている業務のほとんどは、すぐに自動化できる事務作業ばかりで、他業種で働く知人や友人の話を聞いていると、「自分はこのままでいいのか」と不安になるらしいのだ。

 3年前に野村総合研究所(NRI)が日本の労働人口の約 49%が、技術的には人工知能(AI)やロボットにより代替できるようになる可能性が高いと発表した。だから、これから自分の仕事も、自動化の波によって奪われてしまうかもしれず、「いまのうちに違う職につきたい」と思っているようなのだ。

 しかし、私はあえて言いたい。「そのような発想で転職しても、あまりいい結果は生まれない」ということを。事務作業が自動化されていくことは、一方で、その分、自分自身の作業が軽減されることも意味している。つまり、これまでは生み出すことのできなかった付加価値を生む余裕ができるというわけだ。自動化におびえるのではなく、「いかにその事象を活用するか」に思考を巡らせた方が、よほど生産的だ。

 何か新しいことが起きたときに、ポジティブに捉えるのか、それともネガティブに捉えるのか。この思考の差は、仕事のアウトプットにおいても大きな違いを生む。AIに代替されることをおびえる銀行員の若手が、仮に別の業界に転職できたとしても、これまでの経験値は一度リセットされる。再度新しく、知識やスキルを積まなければならないのだ。そうこうしているうちに、転職した業界にも自動化の波がやって来るかもしれない。そのときには、また次の業界へ飛び立つのだろうか?

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