#SHIFT

「転職バブル」は砂上の楼閣 “人間力”があればAI時代も怖くない「淡い幻想」は危険(2/5 ページ)

» 2018年11月14日 08時30分 公開
[森永康平ITmedia]

「最近の若者」はダメなのか

 転職を考えている間、その悩みを誰かに相談したくなるのは世の常だろう。だが、自分と近しい人間、ましてや同じ職場の上司や同僚にまで相談するのは考え物である。人間関係はどこでどうつながっているか分からないからだ。ふとした相談が上司や取引先に漏れることは意外とあり、それによって職場に居づらくなってしまうのは自分なのだ。結果的に次の転職先も決まらないまま職場を退職してしまう人もいる。

 過去にそのような話をしたところ、「自分の上司は信頼できる人だから相談した」という若者に出会った。しかし、上司は話を一通り聞いた後、「最近の若い人はすぐに転職を考える」と諭し、我慢することの重要さを延々と若者に説いたそうだ。筆者はこの「我慢することが大切だ」という価値観へ違和感を覚えた。

 なぜなら、時代は速度を上げながら変化を続けているからだ。昔の常識の中には、現在は非常識になっているものもあるように、現在の常識も未来には非常識になっているかもしれない。「石の上にも三年」、つまり「3年間は頑張ってみよう」と説得されるのだとよく聞くが、このご時世、3年間もあったら世界はガラっと変わってしまう。思考を停止させたまま3年間を過ごせば、まさに浦島太郎のようになってしまうだろう。

 そして、もう一つ違和感を覚えたことがある。「最近の若者はすぐに転職する」という指摘についてだ。厚生労働省が発表している「新規学卒者の離職状況」には、1987年からの新規学卒就職者の学歴別就職後「3年以内離職率」の推移が載っている。

 1987年の大卒者の就職3年後の離職率を見ると28.4%だった。これがどの程度上がったのか。驚くべきことに2015年の大卒者の就職3年後の離職率は31.8%だったのだ。実は1987年から2015年の29年間の平均値は、31.3%なのである。つまり、昔から「若者の3割程度は3年以内に辞めている」のが事実なのだ。とすると、「最近の若者はすぐに転職する」という言説は不正確ということになる。

photo 大卒の就職後「3年以内の離職率」の推移(厚生労働省のWebサイトより)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.