では、愛国心溢れる立派な志をお持ちの方たちが、なぜこうした矛盾した考えに陥るのか。もちろん、安倍さんの信者で、「総理が移民政策じゃないって言ってんだから、移民じゃないんだ」とかたくなに信じている方もいらっしゃるかもしれないが、個人的には、イデオロギーを超越したところにある、日本人が潜在的に持っている「恐怖」が関係しているのではないかと考えている。
それは「人手不足で日本が滅びる」という恐怖だ。
今回の法案もなんとなく、なし崩し的に賛成へと流れる人がいるのは、「移民も怖いが、人手不足はもっと恐ろしい」という脅迫観念のような思い込みがある。なぜそんなことが言えるのかというと、日本ではこれまでも「人手不足」という「錦の御旗」を掲げると、どんな無茶も通ってきた、ということが繰り返されてきたのだ。
人口減少、限界集落、少子高齢化みたいなネガワードが溢れる流れで、人手不足祭りが始まったので、この問題を何やら人口と結びつけたがる人がマスコミでも多いが、実は両者は全く関係ない。
その証拠が1960年代だ。
年配の方ならば覚えていると思うが、この時代は今とは比べものにならないほど「人手不足」が叫ばれた。新聞には連日ように、人手不足で悩む企業の話題が掲載され、世の中に悪いことが起こると、すべて人手不足のせいにされた。
例えば、分かりやすいのが1965年にたて続けに発覚した、オートレースなどの公営ギャンブルの八百長事件だ。コンプラ教育不足や、組織のガバナンスに問題があるのは明らかなのに、以下のような「人手不足犯人説」がまかり通っている。
『公営ギャンブル 八百長なぜ起こる 人手不足 監督がルーズに 選手の待遇改善望む声も』(読売新聞 1965年10月7日)
少年犯罪が起きるとすぐにゲームやネットのせいにする、典型的な「時代が悪い」的ロジックだが、裏を返せば、「人手不足」を出せばなんでも許されるような風潮があったのだ。
だが、ご存じのように、この時代は労働人口も右肩上がりで、今と比べものにならないほど失業者も溢れていた。要は、高度経済成長で人々が豊かになってきたことで、安い人件費で労働者をコキ使いたい企業の求人がそっぽを向かれてきた、という雇用ミスマッチが起きていただけの話なのだ。
もちろん、産業界は今のように「外国人労働者をいれてくれないと死ぬしかない!」と訴えたが、日本の政治家も今と比べてかなりまともだった。『人手不足対策 人口政策を再検討 首相・労相が一致 外人は受け入れぬ』(朝日新聞 1967年2月25日)という見出しからも分かるように、移民政策を突っぱねたのだ。
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