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“ワクワク”働けない日本の働き方改革に欠落している「QoW」とは?ここが変だよ、日本の「働き方改革」(3/4 ページ)

» 2018年12月18日 06時45分 公開
[伊藤慎介ITmedia]

“宮大工”的発想で多様性を生かした働き方を目指すべき

 伝統的な神社仏閣の建築や修復を担う宮大工の話を聞いたことがある。

 建物の柱の材料を選定する際に、断面の年輪が均等で美しい材木ではなく、あえて年輪に偏りのある材木を選ぶという。南側に生えていた材木は南側に使い、北側に生えていた材木は北側に使うといった具合に、材木ごとの特徴を生かしながら組み合わせていくことで、強度と柔軟性を両立させた構造が実現できるそうだ。

 素人的な発想だと、年輪が均等など特徴のそろった材木を組み合わせていく方が作りやすいように思うが、均質化されすぎていると逆に構造的に弱いものになるという。

宮大工の発想と働き方は通じる 宮大工の発想と働き方は通じる

 この話を聞いて思ったのは、組織も働き方も全く一緒ということだ。

 働き手の個性をできる限り抑え込んで“一労働者”として扱えれば、管理はしやすく、すぐにアウトプットが出るのだろう。一方で、結束力が弱く、柔軟な判断や対応ができないため、想定外の危機が発生したときにめっぽう弱くなってしまう。

 技術進歩によって自動化やロボット化が進んでいくと、“均質化”された働き方であるからこそ、簡単に機械やソフトウェアに代替されていくに違いない。働き手の個性が抑制されているので、クリエイティブな商品やサービスを次々と創出することもできないだろう。

 働き手の個性を生かそうと思えば、前述のようにオフィス環境に柔軟性を持たせることに加えて、時間や仕事内容についての柔軟性も必要となる。

 筆者の場合は、会社の収入だけだと不安定であることと、ありがたいことに非常勤のお仕事をいただけたことから、いくつかの仕事を兼業している。実際に経験してみると、想像以上に相互に役に立つことが多くあると感じる。そのため、兼業・副業したい人に機会を与えることは、従業員満足度の向上のみならず、社員の多様な経験がもたらすインプットによって会社への貢献にもつながるように思う。

 産業革命以降は工場勤務が当たり前になったので、定時出勤、定時退社、専業勤務という働き方が常識だった。ところが、農耕が中心の時代では、農家は「お百姓」と呼ばれ、コメや野菜の栽培だけでなく、森林管理、鳥獣の狩猟、山菜の採取、保存食品の製造、農具や日用品の製造や修理など多種多様な仕事を兼務していたと聞く。

 つまり、今の働き方のような「シングルジョブ・シングルタスク」ではなく、「マルチジョブ・マルチタスク」だったのだ。今でも地方の農耕地域に行くと、そういう文化が残っている。マルチジョブ・マルチタスクの場合は自ずとコメ作りが得意な人、漬物上手の人、山菜採取が得意な人など、“得意技”が評価されるようになり、シングルジョブ・シングルタスクのように1つの職務の成果だけに振り回されることがなくなる。

 情報革命が進み、働き手の個性を生かすこれからの時代では、もう一度昔のようなマルチジョブ・マルチタスクを前提とした仕組みに戻したほうが良いのではないかと思ってしまう。

 また、生涯現役が叫ばれ、さらなる定年延長が検討され始めているが、画一的に定年延長を進めることは企業負担の増加と生産性の低下につながりかねないし、何よりも若者が活躍する機会を奪いかねないと危惧している。それよりも、何歳になったとしても社会に対して貢献できることがある限りは、働きに応じた対価をもらって働ける社会にしていくことが大切だと思う。

 農家の得意技ではないが、働きに出る母親のために面倒見の良い高齢女性が子どもの面倒を見る、手先の器用な高齢男性が家やモノのちょっとした修復をしてあげるなど、お互いに助け合う「互助」の考え方を基本に、できるだけ多くの人がいつまでも社会参画できる仕組みにしていくべきである。そうなれば高齢者の健康寿命の維持にも寄与するに違いない。

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