――今も多くの職場では働き方改革が叫ばれ、書店でも残業しないコツなどを書いたビジネス書が既にあふれています。その中でなぜ、あえて「残業学」という学問的な概念を立ち上げたのでしょうか。
中原: 上記の残業の問題に取り組むために、まず戦略性を持たせなくてはいけないと考えました。1つは科学的アプローチです。現状を徹底的に“見える化”したかったのです。
2つ目は、残業がなぜ起きるのかというメカニズムを調査を通じて明らかにすることです。(働き方改革を)行った後どんないいことがあるのか、やらないとどんな悪いことが起きるか、1つの学問体系にするチャレンジだったのです。そして3つ目は“How”、打ち手(対策)の部分も書かなくてはいけないと考えました。
残業対策の話題では大概、「私の仕事術」「プライオリティ―を付けて仕事しよう」といった個人の話か、「会議のやり方」「Googleではこんな事例がある」といった組織の成功体験談が多いです。これらは人事担当者がついつい“コピー&ペースト”して実行したくなるものです。
でも、会社によって扱っている事業も製品も違うから、コピペできないのが現実です。しっかりとした科学的な立場から抽象度の高い議論をしない限り、「私」や「組織」の成功体験では(実際の職場で)使えない、と思いました。そのためには心理学や経営学、社会学など横断的なアプローチが求められると考えたのです。
さらに、従来の残業に関する学問を見ているとよくあるのが国際比較です。「英国では残業が多い、少ない」といった国別統計の研究はとてもなされています。あと、残業と日本型経営の関係を示したものも多いです。景気のいいときは残業を増やし、悪いときは減らすことで雇用調整(解雇)しなくて済むので、日本型経営とマッチしてきたということです。
これらも貴重な研究でしたが、(従来の学問は)一番大事なことに焦点が当たっていなかったように思います。労働者が長時間働かなければいけないかどうかは、個々の職場という“半径5メートル以内”の状況で決まっているものである、ということです。よりミクロな視点で見なくてはいけなかったのです。
例えば、現場の人間からすると「日本型経営と残業が結びついている」といわれても、「そこからどうしていいの?」と思ってしまう。大事な問題に(既存研究が)ちゃんと答えていない。それに私たちは今回、チャレンジすることにしました。
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