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南極で冒険家に突き付けられた「極限の選択」とは 阿部雅龍さんに直撃何を捨て何をつかんだのか(2/4 ページ)

» 2019年02月06日 08時00分 公開
[服部良祐ITmedia]

「自分がすべきこと見失うな」

――阿部さんがアマゾン川のいかだ下りに挑戦した時は、マラリアにかかって生死の境をさまようなど、冒険にはトラブルがつきものです。今回の異常な豪雪はどう感じましたか。

阿部: とにかく理不尽だと思いましたよ。自然とはそういうものですが、歩いている最中も「何で今年それがぶち当たるんだよ」という気持ちでした。僕だけでなく他の外国の冒険家もみんなそう思っていたでしょう。それぞれ人生をかけていたのだから。それでも真っすぐ歩いて行かなくてはいけない、と思ったのです。

――今回の遠征では前半の悪天候で行程が遅れて食料の消費が激しく、当初目指していた「無補給」の方針を転換して食料補給を受けました。

阿部: 出発から31日目、ルートのチェックポイントに食料の備蓄庫があり、そこから補給を受けました。実はこのポイントに着く3日くらい前に、ベースキャンプから「食料を補給してはどうか」と打診がありました。

photo 見渡す限り「白」の南極

  食料が無くなるということは自己責任です。クレバスに落ちるといった(突発的な)場合にはレスキューが要ります。でも、食料が切れるのはあくまで自分のマネジメントのミスなのです。補給の提案を受けた後はそのことばかり考えました。ストレスとプレッシャーで、疲れているのに不眠症になるほどでした。結局、補給を受ける前日に決断しました。

 350キロ地点であるチェックポイントまでに31日間かかりましたが、このあたりで降雪が止まり、残りの550キロは22日間で踏破しました。積雪さえなければ予定通り無補給でいけたのでしょうが、天候に阻まれましたね。

――なぜこのような判断を下したのでしょうか。

阿部: 無補給は僕のやりたかったことで、自分を押し通すこともできた。ただ、チェックポイント直前であれだけ降っていたドカ雪がまた来たら、行けなかったでしょう。あの時は毎日雪が降っていたので、もう一度降らないという保証は無かったのです。

 遠征中に僕は日記にこう記しています。「この雪が続くなら補給は絶対必要 頭の中で考える 絶対にやるべきは南極点」「無補給でやるのはただのイコジでしかない」。

photo 「この雪が続くなら補給は絶対必要」と冒険中の思いがつづられた阿部さんの日記

 無補給達成への未練や意地で、自分がすべきことを見失ってはいけないと思いました。補給をもらわなくても行ける状況に結果的にはなりましたが、たとえそれで行けたとしても無茶な判断でしかない。

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