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予算は社員の自由? 上司の命令がない? 謎の組織「ホラクラシー」に迫る理想の職場か、それとも幻想か(2/3 ページ)

» 2019年02月14日 08時00分 公開
[服部良祐ITmedia]

従業員も「ロール」に応じた経営判断が可能に

 ホラクラシー組織を本格的に導入し始めたのは18年3月ごろ。CEOの島田寛基さんによると、同社はもともと強い専門性を持つエンジニアを採用する方針を取っていた。そこで「CTO(最高技術責任者)など一部の幹部に強い権限を持たせるより、いっそ各業務をその技術のスペシャリストに全部任せる方が良いのでは」(島田さん)と考えるようになったという。

photo scoutyの会議風景(同社提供)

 同社によると、ホラクラシー組織とは米国系のホラクラシーワンという団体が定めた「ホラクラシー憲法」にのっとった組織形態を指す。大きな特徴の一つが、従来の会社組織が従業員に割り当ててきた「役職」でなく、新たにロール(役割)というものを決め、それに応じた権限を従業員に委譲する仕組みだ。島田さんは「権限を明文化して分けていくことで組織運営を行っている」と説明する。

 ロールは「給与決定」から「コーヒーの発注業務」に至るまで、社内に多くの種類が存在する。一般的な日本企業の従業員のように、人事部の人が人事系の仕事、総務ならバックオフィスの業務に専従する訳ではない。あくまで社員の能力や好みに応じた「役割」が話し合いの上で定められている。1人の社員が複数のロールを保持する一方で、1つのロールに複数の社員が割り当てられている場合もあるという。

 例えばCEOである島田さんは「多額決済」や「上場準備」といったロールを持つ一方で、写真好きなことからPRの仕事で出動する「フォトグラファー」でもある。業務の決裁権限を上位の役職者が掌握するのではなく、自分のロールの領域内の業務であれば、経営判断に関わるレベルの戦略も自主的に考えて決定できる。例えば、採用もHR(人事)担当が一元的に決めるわけではない。近い分野のロールの集合体である「サークル」(チーム)ごとに、採用の権限がある程度ゆだねられているという。

 島田さんは「例えば僕はマーケッターよりマーケティングについて専門性があるわけではない。だからあえてCEOの権力が下まで及ばないようにしている。トップダウンで(従業員を)管理せず、各ロールやサークルに権限を委譲することで、会社全体の戦略を(各ロールの)担当者が考えるようになる」と強調する。

 このロールは固定的なものではなく、新たに創り出されることも多い。例えばある時、社内で「社員がオフィスで開催する個人勉強会を支援したいが、誰に相談すればいいか分からない」という声が上がった。ホラクラシー組織では、誰が決定すべき業務なのかあいまいになっている状態を「ひずみ」と呼んでいるという。scoutyでは今回のケースに当たる「福利厚生」の領域のロールを議論して新たに定め、担当者を決めることでこの「ひずみ」を解消した。

 島田さんは「うちでは『あなたのミッションはこれ』と上司が決めるより、会社の状況に応じて(担当する仕事が)変化していく。あるサークルの中ではCEOも下っ端だったりする。僕らの組織は生き物のようなイメージ」と説明する。

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