#SHIFT

「東京マラソンの仕掛け人」に聞く“ブームの作り方”ランニングにハマっていった女性たち(2/5 ページ)

» 2019年02月15日 07時15分 公開
[瀬川泰祐ITmedia]

「自己編集可能」なスタイルの提案

 本来、PRの目的は、一方的に情報を広めるだけにとどまらず、ターゲットとなる層を含めた消費者の意識変化を促しながら、エンゲージメントを高め、態度を変容させ、購買につなげることにある。そのためにも、どのようにメッセージを出すのか、コミュニケーションをするための接点をいかにして作るのかが非常に重要だ。そこで、早野氏が採用したコンセプトは、「フュージョンランニング」というものだった。

phot

 「人が走る理由はそれぞれでいい。このフュージョンランニングという考え方は、 “あなたの好きなものを何でもいいからランニングと融合しよう”という考え方です。例えば、“実は私、恥ずかしくて言えなかったけど、走った後のビールが好きで”っていう人も出てきますよね。そうすると何が起きるかっていうと、ビール関係の人がカロリーハーフとかを作るわけです。スポーツへの意識が高いものが、世の中に出てくる。こうして世の中全体で、“このスタイルなら私でもできるかもしれない”って思ってもらえるように、走るための理由、ランニングと融合する何かを提案していったわけです」

 思えば、今や、ランナーが音楽を聴きながら走る姿は、当たり前のように見られるようになった。音楽プレイヤーは超小型化され、イヤフォンは防水性が備わり、ワイヤレスが当たり前になりつつある。GPS機能がついたランニングウォッチは多くのメーカーから発売されているし、コンビニや薬局の化粧品コーナーには、汗に強いウォータープルーフタイプの紫外線(UV)ケアアイテムやデオドラント製品が数多く陳列されている。ランナーたちは、自分の好きな何かを掛け合わせ、自分だけのランニングスタイルで走り、自分だけの特別感を味わうことができるのだ。

 このコンセプトの特筆すべきところは、消費者とランニングとのタッチポイントが数多く作り出されている点だ。普段の生活の中で、ランニングやスポーツを少しずつ意識させながら、消費者のインサイトを刺激し、購買欲求のスイッチを自ら押させるような仕掛けになっている秀逸なマーケティング手法といえるだろう。さらに、「自己編集可能」であり、顧客体験全体が個別に最適化されているため、自分だけの特別感を醸成し、結果的に自ら編集したランニングスタイルへのエンゲージメントを高める効果があったといえよう。

 「それまで、マラソンを走っている人たちって、変な話だけど、通知表で言えば5の人たちばっかりでね。通知表で1とか2の人たちは、学生時代に体育の先生や大人たちから“何やってんだよ、ダメだな”って言われて過ごしてきたわけです。競技スポーツを基準にして評価されてしまうので、“私、体を動かすの好きなんだけど、あのコーチのせいでスポーツが嫌いになっちゃった”っていう人がたくさんいるわけですよ。だから、そういう人たちの価値観を変えたかったんです」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.