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「組織の中で我慢」を強いる教育とは決別せよ「忍耐・協力・礼節」だけでは何も変わらない(3/7 ページ)

» 2019年02月18日 06時45分 公開
[多田慎介ITmedia]

教育改革は「今あるものをちょっと良くする」だけでもいい

工藤: 教育現場には、子どもが自律した考え方を身につける機会を奪ってしまっている慣習がたくさんあります。例えば教員によるノート点検。自分が振り返りに使うためではなく、「先生にチェックされるから」という理由でノートを一生懸命に取っている子も多くいます。

青野: 本来の目的を見失ってしまっているんですね。

工藤: はい。これは会社の中でも同じかもしれませんが、目的を見失い、手段ばかりにこだわっているケースは多いですね。誰が読むのかも分からない作文を書かせるとか。

青野: 思い出しました。私は子どもの頃、読書感想文を書くのが本当に苦痛でしたね。本を読んでおもしろかったという気持ちは自分の中にあるんですが、感想文となると誰のために書けばいいのか分からないから、進めようがなかったんです。

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工藤: そうですよね。他にも、「事あるごとに目標を書かせる」なんていうのもあります。「今年は遅刻をしない」といったような、誰に見られても問題のない、目標としてほぼ意味を持たないものが教室の掲示板に数多く並んでいます。

青野: 魂の込もっていない目標(笑)。

工藤: 「ほとんど誰も読まない新聞を作る」というものもあります。修学旅行から帰ってきたら、「金閣寺は何年に建立されて……」から始まる新聞をみんなで作る。でも、調べればすぐに分かることが書かれている新聞なんて誰も読まないじゃないですか。これはみんなで協力して新聞を作ること自体が目的になってしまっているんです。本当は「そんなの誰も読まないじゃん」と言えるような子を育てなければいけないのに。

青野: 本当ですね。

工藤: だけど教育現場では相変わらず、「忍耐・協力・礼節」ばかりを重要視しています。もちろん教育にはこうしたことも大切なんですよ。しかし、それ以上に重要なのが自律だと考えています。自分で考え、自分で判断し行動できる力です。

 麹町中では、宿題を完全に廃止しました。夏休みの宿題も出していません。すでに分かっている範囲を何回も繰り返す必要はないんです。分からないところに自分で気づき、それを分かるようにしていくことが勉強ですから。

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青野: 「自分にはもう分かる範囲の問題なのに何度もやらされる」というのは、苦行でしかないですよね。

工藤: しかも時間だけはやたらとかかる。日本の労働生産性が低いと言われるのも無理はないと思います。大量の宿題を出されたら「僕はもう分かるから、分からないところだけやっていいですか?」と交渉できたらいいんですけどね。

青野: 私は中学時代、実際にその交渉をしたんです(笑)。

工藤: そうなんですか?(笑)

青野: 中学1年で覚えなければいけない漢字が300あったんです。だから「あ、1日1字でいいんだ」と考えて、宿題でどれだけ出されようが、勝手に毎日1つずつ覚えていく方針にしたんですね。簡単な漢字もあるから、ある日のノートには3つだけ漢字を書いて提出しました。そうしたら、先生からものすごく叱られて(笑)。

 私は合理的にやっているつもりだったんですけどね。

工藤: 教育現場ではそうした場面がたくさん見られます。これでは、何も考えない人間を育てることにつながってしまいます。実は、修学旅行も変えたんですよ。

青野: どのように変えたんですか?

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