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「組織の中で我慢」を強いる教育とは決別せよ「忍耐・協力・礼節」だけでは何も変わらない(5/7 ページ)

» 2019年02月18日 06時45分 公開
[多田慎介ITmedia]

経済界は「我慢させる教育」を求めていない

工藤: 私が「目的と手段」の話をし続けている背景には、子どもたちに求められる力が変わってきていることがあります。社会構造や経済構造が大きく変わっていく中で、これからは自らの意志で起業したり、自由に転職したりできる力が求められると思うんです。

青野: とても大切な力ですよね。

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工藤: 自分たちが出て行く社会を否定ばかりせず、夢をもって飛び立って行くことができる生徒を育てたい。そんな思いから、麹町中の全教職員・保護者の最上位の目標を「『世の中まんざらでもない! 大人って結構素敵だ!』と思える生徒を育てる」にしました。学校に来て、「世の中が嫌いになり、大人になんかなりたくない」と思うのでは、学校なんていらないですよね。この目標は私たち教員や保護者が「今やっていることが子どもたちにとって本当に良いことなんだろうか」と悩んだり迷ったりしたときに、常に立ち返るものです。

青野: これ、すごい言葉ですよね。いかにも学校っぽい角張った目標ではなく、絶妙なラフ感があるんだけど、ぎゅっとエッセンスが詰まっている。

工藤: 人間を否定しちゃいけないし、社会を否定したってしょうがない。自分の人生を楽しむのは自分だよ、と。だから学校は社会との垣根をはずして、シームレスにつながるべきなんです。世の中には素敵な大人がいっぱいいることを教えるべきだと思うんです。

 サイボウズさんにはまさに、社会で生きることを楽しんでいる素敵な大人がたくさんいるんじゃないでしょうか。

青野: そうですね。サイボウズでは「断る権利が全員にある」んです。上司の言うことが絶対ではない。日本の組織形態のスタンダードは「メンバーシップ型」といって、上司に人事権が集中しているんですね。そのため「来週から君は上海勤務ね」と急に言われても、社員は断れないんですよ。

 残業の問題も同じです。上司が言ったことは絶対で、それに背くと解雇事由になってしまう。こんな恐ろしいやり方はよくない。これでは社員の自立が損なわれる一方。そう思ってサイボウズではいろいろと変えてきました。

 例えば「新・働き方宣言制度」という現在の人事制度では、「君はどこで働きたいの?」「仕事をする曜日は?」「朝は何時に出社して、何時まで働くの?」といったことを全員に問いかけて、1週間の自分の仕事のリズムまで宣言してもらっています。

工藤: そうしたアウトプットは、従来の教育の中で育ってきた人がいきなりやれと言われても難しいかもしれません。「忍耐・協力・礼節」を疑わない、いわば「組織の中で我慢しなさい」という教育ですから。

青野: こうした問題提起をしている工藤さんが「公立中学の校長先生」だというのが本当に面白いですよね。ご経歴も、基本的にはずっと教員ですよね。このあたりが逆に説得力があるというか。

工藤: ずっと教員畑を歩んできたと知って喜んでくれる方も多いです。

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