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「組織の中で我慢」を強いる教育とは決別せよ「忍耐・協力・礼節」だけでは何も変わらない(4/7 ページ)

» 2019年02月18日 06時45分 公開
[多田慎介ITmedia]

「京都奈良旅行プラン」を代理店に提案

工藤: 生徒たちが一時的に旅行代理店の社員となった前提で、1泊2日の京都奈良の旅行プランを企画し、代理店に提案するんです。2泊3日で行く実際の修学旅行は自分たちが企画したプランの現地取材という位置付けです。例えばこんなグループがありました。ターゲットはおじいちゃん、おばあちゃん。彼らは「健康増進に役立つ寺社巡り」というプランを企画したんですね。現地では予定した神社や寺を周り、インタビューして写真を撮ってくる。帰ってきたらその取材内容をまとめ、旅行パンフレットとプレゼン資料を作成し発表します。

青野: おぉ……。旅行代理店としては、新しいアイデアをたくさんもらえる場でもありますね。

工藤: パンフレットの制作では、代理店の専門家を招いたのですが、「書店に並べたときに売れる旅行パンフレットのタイトルとは?」といったことも学んでいましたね。

青野: 本格的ですね!

工藤: こうした学びは、「目的」と「他者」を意識することにつながります。麹町中では目的がはっきりしない学習をスクラップしてきました。スクラップ・アンド・ビルドとよく言いますが、スクラップにこそ意味があるんです。形骸化した教育活動をスクラップすることで、子どもたちが目的もなくやらされていた慣習が消えていくわけです。

 子どもの頃から、常に「何のため?」「誰のため?」を考える訓練をしていれば、社会に出たときの人材の価値も大きく高まっていると思うんです。今までの日本の教育は、「目的が分からなくてもまずは言うことを聞け」というような感じです。そうやって育った人は、会社に入ってから「おかしい」と感じることがあっても、自分の力で改善しようとは思えないのではないでしょうか。

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青野: その体験がないわけですからね。なかなか形を壊せないという実例は多いと思いますよ。

 私は以前パナソニックで働いていたんですが、松下幸之助さんが作った「事業部制」がずっと形として残っていたんですね。幸之助さんが経営の舵取りをしていたときに、社内や周りの状況をいろいろと見た上でベストな方法だと思って作った制度です。

 その後は状況も変わっているし、幸之助さんが生きていたら「もう変えよう」と言っていたかもしれないのに、ずっと頑なに守っていたんです。

工藤: 事業部制を守ることが目的になってしまっていたと。

青野: はい。そうした例は至るところに見られると思います。

 でも工藤さんのお話を聞いて希望が持てました。私は「教育を根本的に変えなきゃいけない」と思い込んでいましたが、今あるものを、目的を意識してちょっと変えるだけでも相当良くなるということですね。

工藤: そうですね。学校改革は実はとてもシンプルなものなのかもしれません。

青野: 今の教育を全否定する必要はないんですね。上位概念の目的から落として再設計していくだけで、しっかりワークするのだと。

工藤: 従来の教育の中でも青野さんのような人物が育っているわけだし、そんなに悪いわけではないのかもしれません。大切なのは「先生の言っていることは本当に正しいのかな?」「この仕組み、何かおかしくない?」という疑問を持って、何のためにやるのか、誰のためにやるのかを考えられる子どもを育てることなんでしょうね。

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