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“286連勝”したプロゲーマー「ウメハラ」が明かす勝負哲学――高く飛ぶためには深くしゃがめ梅原大吾が提示する「新しい仕事」【後編】(6/7 ページ)

» 2019年02月22日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

守りに入ってしまうと「保守」にならない

――政府主導でも働き方改革が進んでいます。例えば残業を少なくしたりとか、あるいは副業をやっていろんなものを取り込んでいこうとしたりとか、ビジネスの世界も変わろうとしています。そういう動きは梅原さんから見るとどう映るのでしょうか。

 自分はかなり日本という国が好きなんです。それはご飯がおいしいとか、暮らしやすいというところなんですけどね。

 ただ近年さまざまな業種の人と関わったりとか、いろんなインタビューを受けたりしていく中で、どうも日本はビジネスの世界では「本当の最先端ではないのではないか」と思い始めてきたところが正直あります。端的に言えば、昔からの考え方を結構引きずってしまっている。もちろんこういうところや国民性も含めて好きなんですけどね。でも、やっぱり固定概念にとらわれているのかなという気がします。

 ビジネスなんてそれこそ真剣勝負ですから、いつまでもそういう古い価値観、合理的じゃない考え方を残すのではなく、いろんなことに習って仕事の仕方を変えていくのはいいことだと思います。日本人は新しい発想は苦手かもしれないけど、方法論さえ教えてもらえれば、すごい力を発揮すると信じています。改革しきってしまえば、新しい環境の中で勤勉な国民性が生きて、また世界を代表するような影響力ある国になると思うんですよね。

phot 昨今は講演にも力を入れている。昨年に続き、3月にはNHK文化センターより招待を受け講演を予定

――「考えが古い」というのは、どんなところで思われますか。

 古いというか保守的っていうことなのかな。でも、保守的っていうことが自分からすると不利なんですよ。インターネットがなかった時代、格闘ゲームの世界では守りに入っていた人でもなんとかなっていました。でもネットが普及してくると、情報が次々と更新されて、攻略スピードも早くなりました。

 そんな中で、自分の中で積み上げてきたものを守るということは、実はものすごく不利なことなのです。自分が一人だけで築き上げてきたものを守っているプレイヤーがいる一方で、次々とたくさんのプレイヤーとデータを共有して情報交換しているプレイヤーがいる。どっちが強いかは明白です。

 勝てていたやり方を自分で守っている間に、どんどんこういう集団に追い付かれ追い抜かれてしまう。この時代に対応した正しい取り組み方というのは、情報を自らオープンにしていくことなんですよ。自分から手の内を明かしてその集団に入っていかないと、たちまち置いていかれてしまうのです。

 日本人にはいわゆる「秘密主義」というか、自分達だけの情報を守って独自に争い合うという性質があると思います。でも世界を相手にすることを考えると、その時点でもう弱いわけですよね。国内の争いには勝ちやすいのかもしれないけれど、そういう考えは古いなとは思います。実は考えを守るっていうことが一番危ないんです。守りに入ってしまうと、逆にそれまで築き上げてきたものも守ることができない。やっぱり自ら活発に動くということが守りも兼ねているのだと感じています。

 勝負の世界での経験から話をしていますが、経済においても攻めの姿勢を持つことが重要だと思います。そうでないと、今はまだ経済発展の途上にあるとしても、日本より人口が多い国々がこれから本気を出してきたら、敵わなくなってしまうはずです。国全体が一度しっかりとしゃがむことを恐れないことが大事なんじゃないかと思います。

phot EVO2017予選(Carlo Cruz/Red Bull Content Pool )
phot EVO2017でのサイン会

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