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“286連勝”したプロゲーマー「ウメハラ」が明かす勝負哲学――高く飛ぶためには深くしゃがめ梅原大吾が提示する「新しい仕事」【後編】(3/7 ページ)

» 2019年02月22日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

目先の勝ちを追わない

――格闘ゲームの場合、自分を変化させて強くなっていくというのは具体的にどういうことなのでしょうか。

 例えば実際の格闘技の場合、練習すれば技の速さや精度も上がるし、その人の筋力だってついていきます。しかし格闘ゲームでは、やればやるほどキャラクターそのものが強くなっていくわけではありません。そういう世界で強くなるとはどういうことかというと、一言で言えば戦略の幅が広がるってことなんですよね。

 ゲームの場合、キャラクター同士にはどうしても相性があり、こういうプレイスタイルのこのキャラクターには、相性の良いこのキャラクターでいこう、と戦術を特化させることも可能です。こういうことがプロよりも得意な一般の方もいることは確かなのですが、プロとの違いは何かといったら、「どれだけ不特定多数の相手に対応できるか」だと捉えています。ですから、どんな相手にでも勝てるように、常に自分のプレイスタイルの幅を広げて、どんな出来事にも対応させることが普遍的な強さにつながっていきます。

phot 日本でベストセラーとして人気の高い『勝ち続ける意志力』が、ファン待望の末、2016年に英訳された。発売から3年以上が経つ現在も、「どこで買えるのか」と書籍を求める声が絶えない

――自分を変化させて成長したいと考えていても、成果が出ないことに悩んでいる人はいっぱいいると思います。そういう時には何を考えればいいのでしょうか。

 目先の勝ちを追わない、ということを考えるべきだと思います。先ほど格闘ゲームのプロと、一般の方との違いを話しましたが、「この人が使うこのキャラクターにはこういう打ち込みをすれば勝てる」といったように、特定の相手に特化した対策はできます。確かにその瞬間だったらその戦術は通用するのかもしれません。でも、経験上それは長い目でみると頭打ちになってしまうんですよね。

 一時的には勝てても、3年後4年後には必ず自分に返ってきてしまいます。最終的に困るのは自分というわけです。勝てるまでの間は確かに苦しいけれど、とにかく耐えて、地力をつけることが大事だと自分は思っています。

――しかし、どうしても目先の勝ちを選んでしまう人が多いように思います。

 もちろん世間の目もあるだろうし、何より自分自身のメンタルがそれに耐えられないのはよく分かります。多くの人は、自分の中で最低限のラインを維持することにこだわろうとするんですよね。一番優秀なのはあいつで、とても敵わないけど、自分はその次のその次のその次ぐらいまでに入っていたいと考える人によく出会います。でも、これってしょせんは「小競り合い」であって、いつまでも目先の利益の奪い合いをすることになるのです。そうしていてもずっと苦しいままなのですよ。

 だったら、1回どれだけ馬鹿にされても何でもいいから、その組織で一番下ぐらいまでいってもいいじゃないかと。その代わり3年後に俺は悠々と楽しんでいるよ、堂々と横綱相撲しているよっていう気持ちで、一度地下に潜るというか、そういう感覚を自分は大事にしています。

phot 2018年パリで開催されたRed Bull Kumite国際大会にて

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