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「東大博士の起業家」ジーンクエスト高橋祥子が考える“ポスト平成の働き方”「平成育ちの起業家」の肖像(3/6 ページ)

» 2019年02月27日 06時15分 公開
[大宮冬洋ITmedia]

お金との向き合い方

――話は変わりますが、成功したベンチャー起業家には「億万長者」というイメージがあります。高橋さんのお金との向き合い方について教えてください。

 お金との向き合い方。いい質問ですね(笑)。私の場合は家庭環境の影響が大きくて、医師の父親から「お金もうけを目的に生きることはナンセンスだ」という教育を受けて育ちました。例えば、家族の食卓でお金の話をしてはダメ。「はしたない」という感覚を刷り込まれました。だから、私は自身のお金もうけ自体に関心が強いわけではなく、自分が突き詰めたい世界をどれだけ深掘りできるかに興味があります。

 ただし、会社の経営者としては資本市場にのっとって活動しなければいけません。当たり前ですが、まず一番にもうけることが求められます。起業当初、「お金もうけが目的で起業したいわけじゃない」と話したら、投資家の方から「社長がそんなことを言う会社に投資したくない」と叱られました。

 このギャップにしばらく悩みましたが、研究とビジネスのどちらかという方法論にこだわってしまうことは視野を狭くする行為であり、両方の側面をいい具合に受容して強みを生かしていけばいいことに気が付きました。ビジネスの力を使ってバイオテクノロジーの研究を進めたい人、バイオテクノロジーの力を使ってビジネスを進めたい人。チーム内にもいろいろいて当然です。その両方をやっていく視野の広さを持たねばやりたいことを達成できないと気付き、落ち着くことができました。

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――1人の研究者としては、「大学に残って研究に専念すればよかった」と後悔することはありませんか。

 ありません。なぜなら、大学で研究していた頃と比べて数十倍の数の研究プロジェクトを進めることができているからです。大学や企業、国の機関との共同研究も多数あります。大学にいたら教授職になって初めてできるレベルです。20代30代では絶対に無理でしょう。自分で会社を興したからこそ実現できています。

 ヒトの体や生命の仕組みは分かっていないことが数多くあります。自分一人で解明したいのか、チームで動くことでより大きなことをやりたいのか。研究者のタイプは分かれます。私は後者です。

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