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「65歳以上の社員募集」「未経験可」――パソナが“仰天採用”に込めた狙いとはポスト平成の採用戦略(2/3 ページ)

» 2019年03月06日 05時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

“誰でも大歓迎”ではない

 ただ、未経験の人材を受け入れているものの、“誰でも大歓迎”というわけではない。南部代表が求めているのは、「年齢を重ねても成長したい」という強い意欲を持つシニアだ。

 同代表は「定年後、元の会社に再雇用されて仕事を続ける“延長戦”の場合は(同じスキルのまま働き続けられるため)『体がしんどいから、適当に働ければいい』という考えでも通用するかもしれないが、当社はこうした意識を改革するため、(あえて)ゼロからのチャレンジを受け入れる」と狙いを話す。

 「シニアを雇う上では、新卒と同じ“ポテンシャル採用”を行い、努力できる姿勢、エネルギッシュさ、働く心構えなどを評価する。研修は入社後にゼロから行うので、人生をリフレッシュする感覚で臨んでほしい」(南部代表)

 こうした考えのもと、実はエルダーシャイン制度は「2〜3年前から構想していた」(南部代表)という。パソナは17年に元関西大学理事長の森本靖一郎氏(当時84歳)を監査担当の取締役に迎えたが、この理由の一つには、同制度の導入を前に、シニアに寛容な社風を作っておくことがあったそうだ。南部代表によると、森本取締役は「今も一般的な社員よりも元気に働いている」という。

photo 「エルダーシャイン制度」の詳細。意欲のある人を求めている(=ニュースリリースより)

シニアから大反響

 同制度の公表後、パソナには新たな挑戦を求めるシニアから応募が殺到。応募者の中には、大企業のOB・OGや元社長、元大学教授、大手金融機関の出身者など豪華な経歴の持ち主も含まれていたという。

 「本社はもちろんのこと、スタッフが5〜6人しか詰めていない地方の支店にまで問い合わせの電話が殺到して困った。募集を知った小学校時代のクラスメイトからも、私宛に『仕事がほしい』と久々に連絡が来て驚いた」と南部代表は笑う。

 ただ、あまりにも反響が大きかったため、パソナの採用責任者は「『この職種にチャレンジしたい』という強い意欲がある人以外は、すでに電話でお断りを入れた」と明かす。

 説明会に参加した約300人は、すでにこうした“足切り”を通過した層であり、今後は適性検査などによって、応募者が新しい分野にチャレンジする資質を備えているかどうかを評価し、内定者を決める予定だ。

ファッション研修や「Office 365」の研修も

 内定したシニアが入社した後は、ブランクがある場合でもスムーズに業務に入れるよう、リハビリを兼ねたさまざまな研修を展開する。

 「マナーや立ち居振る舞いのほか、若い人とうまくコミュニケーションを取る方法もレクチャーする。シニアにスタイリストを付け、親しみやすい服装のセンスを体得してもらうことも検討中。また、当社は業務で(日本マイクロソフトが展開するクラウドベースのビジネスツール)『Microsoft Office 365』を使っているため、これの操作方法も教える」(採用責任者)

 基礎研修を終えて実務に入る際は、年下の社員がシニアのメンターに就く。メンターは定期的に体調や家庭の事情をヒアリングし、最もパフォーマンスを発揮できる勤務形態、裁量の範囲、仕事内容などをシニア人材と共に考えるなど、手厚いサポートを行う。社内のジムをシニア向けにも開放し、健康を保ちながら働くための運動・食事の指導も行う。

 “人生の先輩”と日々コミュニケーションを取り、パフォーマンスを上げる――という新たな職務を社員に任せることで、「会社としてのマネジメント力も向上させたい」(採用責任者)という。

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