白熱する議論に黙って耳を傾けていた小田社長がここで発言する。
小田: 君たちの立場、気持ちは分かる。だが、私が入社してから30年以上になるが、仕事のやり方を抜本的に見直した記憶などない。これだけ技術が進展して業務の構造が変わらないなんてことがあるだろうか。前提や思い込みを捨てて、自分たちの業務を捉え直してみてほしい。
財務経理担当役員の仁和が口を開く。先代社長に仕えた大番頭で仕事は堅実だが、慎重居士という社内評価もある。
仁和: 社長、改革にトライする必要性は理解しております。私も「どんなにエネルギーをかけてでも完璧にする」という当社の財経の考え方は、もう少し柔軟にしていく余地があると思っております。しかしそれは、これまで「正しい」としてきたことを「正しくない」とすることです。先輩の教えを否定することです。相当の意識改革が必要かと思いますし、時間もかかると思っています。
小田: だからこそ、ここにいる皆に集まってもらっているのだ。君たちが先頭に立って現場の意識を変えてほしい。もちろん、精神論じゃ難しいだろう。具体的なアイデアや事例はコンサルタントから注入してもらう。このステコミの場でも自由闊達(かったつ)に議論していきたい。
最後に口を開いたのは、芝田取締役。思い込んだら必ず実現する剛腕ぶりが一目置かれる反面、時に強引なやり方や物言いから「鬼芝田」と恐れられている。
芝田: 社長、最終的にはリストラするんですか?
小田: いや、これからは人材不足の時代だ。余力が生まれた部分は成長している事業や新しいビジネスをつくる活動に振り向けていきたい。あるいは、現機能の中でより高度な業務にシフトするということもあるだろう。いずれにしてもリストラ目的と誤解されると前向きになれない。そこは私からも発信していく。
芝田: 分かりました。ただ出口の議論は大事だと思います。そこはプロジェクトとしてはっきり示してください。それから、一律何%の余力創出というのをノルマのように課すんですか? 堀尾が先ほど申し上げましたが、この半年、人事部門はルーティンを抱えながら、働き方改革の制度設計を必死でやってきました。さらに余力を出せ、人を出せというのは、はっきりいって酷ですわ。
小田: ノルマのように結果の数字だけを見てプレッシャーをかけていくつもりはないが、かといって、聖域を設けたくもない。まずは、30%という水準を意識して業務を見直していこう。ちなみに、竹中さん、わが社くらいの規模で同様の改革に取り組んだ事例ではどのくらいの効果がでているのかね?
竹中: 平均すると20〜30%といったところでしょう。企業によっては50%に近い成功例もあります。
小田: うむ。今後の成長のための必要性と私の感覚で立てた目標ではあるが、世の中的には決して荒唐無稽ではないということだ。芝田さん、どうだね。
芝田: 分かりました。
引き下がったものの、その表情は決して腹落ちしてはいなかった。
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