11年3月の震災と原発事故の後、太平洋戦史研究の古典(1984年初版)である『失敗の本質』 が注目され、再度のベストセラーになりました。とくに人口に膾炙(かいしゃ)したのが同書の鍵となる、「戦力の逐次投入」という概念です。抜本から戦略を見なおさなくてはならないタイミングでそれをせず、既定路線のまま小出しに兵力を追加して前線に送り出した結果、その都度撃破されてしまう事態を指す用語です。
しかし重要なのは、「愚かな逐次投入」と「根気強い献身的奮闘」とが、しばしば同時代の時点では見分けがつかないことです。無意味な逐次投入だったという評価は、あくまでも失敗が確定した後で下されるのであり、偶然でも勝利していたら同じ行為が、逆に「あきらめず戦い抜いた名采配」と評価されるかもしれません。ここに、過去を教訓とする際の難しさがあります。
あまり知られていませんが『失敗の本質』は、復員した兵士たちがやがて企業の幹部となり、軍隊の組織文化を日本的経営が受けついだことを指摘して終わります。実際、「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる」を信条としたのは、戦後日本で経営の神様と呼ばれた松下幸之助でした(松下自身は、出征者ではありませんが)。
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