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働き方改革は「平成の戦艦大和」になるのか平成日本の最期(3/7 ページ)

» 2019年03月29日 06時00分 公開
[與那覇潤ITmedia]

国民全員には効果がおよばない

 18年の自民党総裁選での石破茂氏との論戦では、安倍首相が「トリクルダウンを主張したことはない」と発言して波紋を呼びましたが、これが虚偽かは「トリクルダウン」の定義によります。超富裕な経済階層を作り出し、彼らの旺盛な「消費活動」を通じて庶民にお金を還流させるという、欧米型の政策ではない点では、たしかにトリクルダウンではない。しかし代わりに大手企業をまずは豊かにし、彼らに「雇用拡大」を促すことで労働者に賃金を届けるという意味では、日本的に改訂された変則トリクルダウンだとも言えます。

 したがって問題は、安倍首相が嘘つきかどうかではありません。議論すべきは、そうした保守主義の発想――「正規雇用の範囲を拡張する」政策が、実際のところ国民のどこまでの割合を覆えるのか(=本当に全員に効果がおよぶのか)であるはずです。私は以下の2つの理由で、保守の政策は全国民的たりえないと考えます。

 1つめは、冷静に考えれば誰しも分かるように「そもそも、全員を正社員にすることはできない」からです。高度成長下の日本的経営の黄金時代でも、正社員になれたのはおおむね男性のみで、多くの女性は「結婚して正社員男性の家に入る」ことで、間接的に企業に包摂されているにすぎませんでした。平成の時代に男性のみでなく女性も正規雇用を目指し出せば、「正社員」の座席が足りなくなるのは当然のことです。

 2つめは、かつてあれだけ熱心に論じられながら(第2次)安倍政権下で忘却された「世代間格差」の問題です。日本型の正規雇用は新卒一括採用とセットになっているため、たまたま大学を卒業する時期に景気が悪く、正社員として入社し損ねてしまった世代は、正規雇用になるチャンスがずっとめぐってこない。特に00年前後の就職氷河期に就活を体験した世代は「ロスジェネ」などと呼ばれ、彼らの代弁者というポジションで発言する学者や評論家を、多数生みました。

photo たまたま就職氷河期に大学を卒業した「ロスジェネ」世代の苦境が、メディアの注目を集めたが……(写真提供:ゲッティイメージズ)

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