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働き方改革は「平成の戦艦大和」になるのか平成日本の最期(5/7 ページ)

» 2019年03月29日 06時00分 公開
[與那覇潤ITmedia]

「無自覚な応援団」の大政翼賛

 こうした保守主義の一体性を考えずに(あるいは意図的に無視して)、「安倍さんは経済政策ではおおむね正しい。あとは、右寄りの価値観さえ変えてもらえたら」といってお茶を濁してきた人たちも、15年の安保法制、17〜18年の森友・加計疑惑のころから焦りはじめたようですね。とはいえ今さら支持する政策の転換はできないのか、なんと「アベ政治を止めるためにこそ、野党が率先してアベノミクスを取り入れるべきだ」なる珍説を唱える方まで現れました。

 大学の先生にも「安倍政権下で新卒採用が改善し、学生が明るくなった。やはりアベノミクスは成功だった」と信じている方がいますが、彼らは「2007年問題」を忘れてしまったのでしょうか。07年をピークに団塊の世代が60歳で定年退職するため、企業は大幅な人手不足になると騒がれたものです。フェミニズム社会学の大家だった上野千鶴子さんは、「退職後の生き方本」の需要が高まるこの年に『おひとりさまの老後』(現在は文藝春秋) を刊行し、ベストセラーにしています。

photo おひとりさまの老後』(文藝春秋)

 ご存じのとおり、大学もふくめて多くの企業は定年を65歳に延長する形で、この2007年問題に対応しました。つまりピークを5年先送りしたわけですから、当然12年、安倍政権が発足する年に大量退職が発生します。経済政策の如何にかかわらず、その退職の穴を埋めれば新卒採用は改善しますし、さらに定年目前の正規雇用者を非正規(定年後再雇用)の賃金に減価して雇いなおせるわけですから、それは企業も元気になるでしょう。

 こうした認識を欠落させ、保守系議員の「いかにもな失言」だけを批判し続ける「転向論客」の方々が、無自覚な応援団として政権の長期化に貢献しました。憲法解釈や歴史認識やジェンダーやLGBTといった話題では「リベラル派のアクティヴィスト」として強く対立する面々に「でも、経済については安倍さんはなかなかだ」と言ってもらえるほど、強力な援護射撃はないからです。はたしてその自覚を、どれだけの人が持っているでしょうか。

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