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リスクだらけの首都・東京 在京企業が本社移転を考えるべき深刻な理由「首都機能マヒ」が日本を止める(2/6 ページ)

» 2019年04月02日 05時00分 公開
[福和伸夫ITmedia]

首都機能のマヒが日本を止める

 首都圏では、多くの人が共働きですから、保育園やデイサービスがやっていないと健康な人も出勤ができません。そもそも鉄道の相互乗り入れは便利ですが止まったら大変です。一つの路線が止まれば全体が止まります。社会を維持する人が仕事に出て来られないと、東京に集中する中枢機能がマヒします。東京というヘッドクオーターに頼っている日本全体も機能不全になるでしょう。

 政府は最後の砦です。東京電力はそこだけはなんとしても電力を確保しようとするでしょうが、2016年には埼玉県の送電ケーブル火災で霞が関まで停電し、東京の脆弱さがあらわになりました。首都直下地震時は、山手線の輪の中に人を入れさせないようにして、首都機能を維持するしかないかもしれません。

 荒川や江戸川の堤防が切れたら、ゼロメートル地帯に住む176万人が孤立します。しかし、その人たちを救えるだけの、消防や自衛隊のヘリはありません。2015年の鬼怒川決壊の時は日本中からヘリが飛んできましたが、首都直下では人数が違います。

 そんなゼロメートル地帯に、どんどん超高層マンションができています。長期間ろう城できる事前の備えが必要です。もし堤防が壊れて浸水したら、堤防を直してから水を排出するしかありません。そういう修復工事をする多くの会社の本社は東京にあります。しかも低地や日比谷の入り江を埋め立てたズブズブ地盤に位置しています。

ヤバイ場所でも地価は上がる

 東京都は「地震に関する地域危険度測定調査」を公表し、「あなたのまちの地域危険度」というパンフレットも出しています。調査は都震災対策条例に基づき、1975年から、おおむね5年ごとに地域危険度を公表していて、2018年は8回目の公表となるそうです。

 地震に対する危険度は、市街化区域の5177町丁目に対して「危険度ランク」を5段階で評価しています。町丁目とは「〇〇町〇丁目」の地域単位。ランクは数字が上がるほど危険度が高いことを意味します。地盤の硬軟による揺れやすさの違い、建物の構造による耐震性の違い、建物密集度による火災の延焼危険度の違い、避難や救助に必要な道路や公園の広さなどを考慮して「建物の倒壊危険性」「火災の危険性」「災害時の活動の困難度」を町丁目単位ごとに分析、これらを組み合わせて総合危険度を評価しています。

 その結果、2018年度は危険度が最も高いランク「5」が全体の1.6%の85地域。具体的には荒川や隅田川沿いの下町を中心に、足立区、荒川区、墨田区に集中しています。地盤が軟弱で古い木造住宅が密集する地域です。これに加えて品川区や大田区、中野区、杉並区、三鷹市、国分寺市など、鉄道沿線の古い住宅地域でも危険度が高くなっています。

 しかし、東京では「危険なところだから人が住まない」とはなりません。むしろ、危険度が高いのに、地価が上昇しているところもあります。

 2018年7月の住宅地基準地価上昇率の都内トップ2(区部)の地点について、東京都の危険度評価をみてみましょう。

▽地価上昇率1位(10.1%上昇)荒川区西日暮里4─19─9

危険度評価(荒川区西日暮里4)谷底低地2建物

倒壊危険度    868位  ランク3

火災危険度    658位  ランク3

災害時活動困難度 1638位  ランク2

総合危険度    581位  ランク3

▽2位(9.4%上昇)荒川区荒川2─21─2

危険度評価(荒川区荒川2)沖積低地4

建物倒壊危険度  30位  ランク5

火災危険度    37位  ランク5

災害時活動困難度 2004位 ランク2

総合危険度    71位  ランク5

 地価上昇率の高い土地を危険度マップと照らし合わせると、ランク「5」や「3」が出てきます。ズブズブの土地にギュウギュウに家を建てているから、何かあってもぜんぜん助けに来てもらえないという場所です。

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