日本に凱旋した北米マーケットの大黒柱RAV4池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)

» 2019年04月22日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

技術的挑戦

 実はこの試乗会に先立って、トヨタの冬季テストコースでも試乗会が行われ、サーキットのように平らにならされた圧雪路でのテストも行っている。DTVとDTCの挙動はここで大きく異なった。基本特性からいえば、DTVは踏んで曲がる。ただし、それは人の身体感覚とちょっと違う、イメージでいえば「敵わない相手に敢えて立ち向かう」という感じ。滑ったら普通は何とかして減速しようとする。ところがDTVは、そこでさらにアクセルを踏むと外側後輪が車体を押し出して回り込む。頭で理解したとしても、とっさの時にそんなことができるかどうかはちょっと別の問題で、おそらくは感覚の補正をしないと使いこなせない。

ダイナミックトルクベクタリング(DTV)では、リヤの左右に流すトルクを能動的に変えることでクルマに旋回運動を起こすことができる

 もう一つ話をややこしくしているのは、最近のトヨタ車に装備が増えているACA(Active Cornering Assist)との兼ね合いだ。この機能は内輪にブレーキをかけてクルマの自転モーメントを作る機能。つまりこれまでのクルマはハンドルを切った時前輪のスリップアングルが増加し、それに応じた横力が発生してクルマの自転(ヨー運動)が始まっていた。

 ACAは、その自転を開始するヨー運動を、片輪ブレーキが助け、また加速局面ではDTVがトルクを外側に大きく配分することで補佐する。伝統的には全て舵輪が受け持って来た機能がブレーキやデフに再配分されたのである。問題はそれらがリレー方式につながっていることで、例えばACAがクルマの自転運動を助けようとしているところで、熟練ドライバーが従来通り舵の効きを高めるためにフロント荷重をあげようとブレーキを軽く舐めたりすると、途端にACAはブレーキ操作に上書きされて、片輪制動を止め、両輪制動に移行する。当然ヨー運動はそこで片輪ブレーキの補助を失い、舵角の分だけに戻ってしまう。あるいはDTVで曲がっている途中にどうやっても減速しないと回り込めないほど行く手が巻き込んでいたら、踏んで曲がっているところからのリカバーは難しい。元々が自分の感覚に背いて、システムを信じて踏み込んでいる状態だから、システムの限界を超えたとき、打つ手がないのだ。

 こういうものをどう評価するかはとても難しい。これまでできなかったクルマの動きを技術の力で成し遂げようとしているということもできるし、曲がると言う絶対性能は向上している。一方で、場面によっては人の感覚とズレを起こすものを許容していいのかという話にもなる。

 そしてそれが、あくまでも限界領域での話だと言う断り書きが付く。そもそも公道でそんな運転はすべきではないが、現実には何らかの弾みで、そういう領域に飛び込んでしまったときに事故が起きるともいえる。

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