ダークプールを活用 STREAMが株取引手数料ゼロを実現できる理由株式取引、手数料無料がトレンド(2/2 ページ)

» 2019年04月23日 07時15分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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手数料無料で収益源はどこに?

 ではSTREAMはどのようにして手数料無料を実現したのか。そこには、昨今存在感が増してきている「ダークプール」の活用がある。

 一般に、株式取引は東京証券取引所が提供するシステムを使い、ユーザー同士が取引を行う。そのほかに、PTSと呼ばれる私設の取引所もあり、夜間の取引などに活用されている。これらとは別に、東証などの取引所を介さず、証券会社が投資家同士の注文をマッチングする取引がダークプールだ。

 ゴールドマン・サックスや野村證券、大和証券などが提供しており、日本全体の株式取引の5〜10%程度がダークプールで取引されているとみられる。企業の創業者などの大株主が大量に株式を売却する場合など、東証を通すと大きく株価に影響してしまう。そんな場合に、ダークプールを利用することで、安定した株価での取引を実現する。

ダークプールの仕組み(スマートプラス資料より)

 本来は機関投資家が利用していたダークプールだが、昨今、一般投資家向けにもダークプールでの売買を可能にする証券会社が増加してきている。SBI証券のほか、みずほ証券、松井証券、カブドットコム証券などだ。STREAMが手数料無料を実現できる理由も、ダークプールの利用にある。

 「ユーザーからの注文を、東証とダークプールの両方に出し、有利な価格のほうで約定させる。ダークプールでは思ったより安く買える場合があるので、そのときだけ、差額の半分を当社の報酬としてもらう形」(林氏)

 もしダークプール側で500円安く約定した場合は、そのうちの半分の250円を手数料とするモデルだ。東証側で約定した場合は手数料を取らない。売った場合も、ダークプール側で高く約定した場合は同様となる。

 PTSへの接続は行わないが、すべての注文をダークプールにも流している。注文のうち、どの程度がダークプール側で約定しているかは非公開だが、一定のボリュームに達しているようだ。

 そのほかに、信用取引の金利コストも同社の収入源だ。信用取引にかかる買方金利は、STREAM内のコミュニティでの活動に連動して下がる仕組みになっている。基本は3.49%だが、最大では1.89%まで優遇になる。STREAMアプリ内にあるコミュニティは1日1000件以上もの活発なやりとりがされており、コミュニティを通じたエンゲージメントがもう一つの特徴だ。

 現在は2種類あるうちの「制度信用」に対応しているが、今後「一般信用」取引も提供する予定だ。

 さらに、STREAMで使っている証券システムをパッケージにし、「BaaS(Brokerage as a Service)」という名称で、プラットフォームとして他社に提供することも進めている。

コミュニティでの活動によって信用金利が変動する仕組みを取り入れる

光があたってきたダークプール

 日本では東証が現物株の取引をほぼ独占している。しかし、投資家がより有利な価格での取引を目指す中、ダークプールが注目されている。「東証だけだと、競争原理が働かない」と林氏。

 一方で、さまざまな規制がかかる取引所に比べ、ダークプールには現状情報開示義務もなく、投資家保護の観点で課題もある。金融庁では、すでにダークプールの規制を進める議論も始まっている。

 「本来、ダークプールの個人投資家へのアクセス開放は、最良執行(顧客にとって最良の条件での取引執行)の文脈で考えるべきもの。取引所やPTSと比較し、同等または顧客に有利な約定になるのが前提だ。ダークプールをあまりに厳しく規制してしまえば、流動性を含む最良執行の機会を失うため、その存在意義を失ってしまう。金融庁の意図は、やみくもに規制するというよりは、適切に管理し、個人投資家が不利にならないように、ダークプールを有効活用し得るようにする、ということだと理解している」(スマートプラスの下田暁取締役)

 その上で、STREAMでは投資家保護のための取り組みも進めているという。

 「万が一、約定価格データと最良執行価格に開きがある場合は、速やかに約定訂正を実施する仕組みと態勢を構築している。併せて、投資家からの問い合わせがあれば、データを開示し、最良執行がなされていることを説明できるよう、常に備えている」(下田氏)

【訂正:2019年4月24日午後4時 初出でSTREAMの設立を「6年前」と記載しましたが、正しくは「2年前」です】

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