新型プジョー508は魅力的だが……池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2019年04月29日 08時05分 公開
[池田直渡ITmedia]
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デザインのために払った犠牲を受け止めきれるかどうか

 ではクルマの構成だ。シャシーはPSAのフラッグシップであるEMP2。エンジンは1.6リッターのガソリンダウンサイジングターボと2リッタークリーンディーゼル。組み合わされる変速機は8段ステップATとなる。

グループPSAのプラットフォームとしては最上位のEMP2。接着を使ったことでボディの減衰性能が上がっている

 PSAの過去の例にもれず、ブレーキのマスターシリンダーは左ハンドルの位置のまま。毎度のことながら右ハンドルモデルは間に合わせの作りだ。ただし、その不利を抱える割にブレーキフィールは悪くない。とはいえ、いっておくがマスターシリンダーが右にあるモデルと同列に見られるわけではない。同じくペダルのオフセットも、PSAの先例から見ればかなり改善されている。これに関しては多くの人にとって妥協できるレベルだろう。

 シートには不自然なところがない。ということは良いものだ。室内空間に対する目の位置も座りの良いポジションが取れ、その状態での外への視野とメーター類への視野はちゃんと取れている。クーペ的なものとしては例外的なほど視界は良好だ。

 発進時のマナーはガソリンもディーゼルも良くできている。スロットルに変な演出がなく、トルコンのつながりもスムーズだ。乗り心地はドイツ流とフランス流の中間。これはなかなか良い落とし所になっている。アシの仕立てだけでなく、ボディの減衰が効いていて、全体にしなやかなで上質なクルマだ。

 山道を走ると、クルマの挙動はステアリングの切り始めからとても素直で、ある程度速度を上げていってもしっとりとついてくる。質感が高いことに加えて走って楽しい良いクルマだ。ただひとつハンドルの握り心地のひどい違和感を除けば。

 ちなみに、スポーティなハンドリングを純粋に楽しみたい人にはガソリンモデルがお勧めで、乗り比べるとディーゼルモデルに感じる鼻先の重さはやはりいかんともしがたい。ただし、クーペ流にリゾートエクスプレスの用途で高速巡航をメインにする人ならば、燃費と低速トルクに優れるディーゼルは魅力的だろう。

プジョー自慢の「i-Cockpit」コンセプトによるインテリア。ハンドルの造形もよくわかる

 結論は極めて難しい。プジョーは世界と戦うためにデザインとハンドリングに特化し、そこは中途半端なことをしない思い切りの良さを見せている。戦略としては多分正しい。そしていろいろな犠牲を払ってカッコ良さに集中した結果、ちょっと競合がいないレベルのスタイリッシュさを手に入れた。しかもハンドリングをウリにするという主張通り、走る機械としての508の出来は素晴らしく、乗っていて楽しい。

 あとはデザインのために払った犠牲を受け止めきれるかどうかということになるだろう。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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