クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

完敗としか言いようがない日産の決算池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2019年05月20日 07時05分 公開
[池田直渡ITmedia]

 西川廣人社長はこの苦境について「18年19年を底として反転したい」と述べている。反転の核となるのは事業構造改革「ニュー日産トランスフォーメーション」だ。

 そのニュー日産トランスフォーメーションについては3つのテーマを設けた。

  • ガバナンス改革
  • 組織改革
  • 事業改革

 今回はポイントを絞って事業改革を見ていきたい。

営業利益率推移(日産決算資料より)

 さて、このグラフを見てグローバル平均利益率の線がいかに下がっているかは一目瞭然なのだが、事業改善を検討するにあたって、あまり意味のあるグラフとはいえない。

 利益率だけに着目すれば、このグラフで説明ができるだろうが、利益そのものは台数と掛け合わせて初めて確定する。当然同じ利益率でも、59万6000台の日本と156万4000台の中国、144万4000台の北米では重みが違う。仮に1台あたり利益が全く同じと仮定しても、北米を100とした時の日本の利益インパクトは41(59.6÷144.4×100)。中国では持ち分比率相当しか利益を計上できないので、54(156.4÷2÷144.4×100)になる。しかも日本は軽自動車の比率が高く1台当たり利益でも厳しいはずだ。

【訂正:2019年5月22日16:30 初出で日本の利益インパクトの計算式内の数値が誤っておりました。59.6と訂正しました。計算結果は修正ありません】

 西川社長はこのグラフを指し示しつ「日本と中国は健全なレベルにある」と説明する。ウソとまではいわないが、それは利益で見る限り意味が薄い。日産はグローバル平均利益率6%を狙うというが、そのためには割合の大きい北米での利益率を上げていかないと極めて苦しい。逆にいえば北米での利益率が改善すれば、日本や中国で多少利益率が落ちても与える影響は半分でしかない。

 実は北米の利益比重が重すぎることが、北米マーケットの失敗の真因だと筆者は思っている。つまり外向けの説明と違って、北米で売れないともうからないことを熟知している日産は、北米で販売促進費用(インセンティブ)をつぎ込んで売り上げを伸ばそうとした。しかし景気の落ち込みに端を発して各社が台数の奪い合いに発展、インセンティブの泥沼から抜けられなくなった。

 それでもなんとか台数を売ろうと無理をしてフリート販売をプッシュした。フリート販売とは要するにレンタカー会社などの大口顧客で、そこに押し込めば台数が一気に稼げるが、大口顧客は当然値引き要求が厳しい。その結果利益が一気に食われてしまう。

 こうなるとブランド価値が毀損し、中古車相場が崩れて顧客が持つクルマの資産価値が下がり、それは下取りの安さにつながって次の新車販売に影響する。加えて販売店の利益も圧迫するということで、北米でのビジネスの基礎を相当に痛めつけてしまったことになる。西川社長も認める通り、このリカバーには時間がかかるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.