中国が突き進む「一帯一路」と、ユーラシア鉄道網の思惑杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)

» 2019年05月31日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

「負の事実」をかわそうとする中国

 AIIBは円借款より高利で、貸し付けた国が返済できない場合、建設した設備の運営権は中国企業のものになる。スリランカは港湾を整備したものの、借金を返せず、99年間の運営権を中国企業に譲渡した。中国海軍の拠点にもできる。これが中国による経済侵略、占領だという批判もある。特に米国は「債務のわな」と激しく批判している。

 18年にマレーシアでマハディール政権が復活すると、シンガポールを結ぶ高速鉄道とマレーシア東海岸鉄道の計画を見直す意向が示された。どちらも「一帯」と「一路」を結ぶ重要な路線で、合計4兆5000億円の事業だ。費用のほとんどを中国輸出入銀行が融資し、建設は中国交通建設集団が請け負う。新政権は高速鉄道計画を20年5月まで延期することをシンガポールと合意した。マレーシア東海岸鉄道は中国側と再交渉し、事業規模を縮小した。白紙撤回すればマレーシアから中国へ違約金が発生するからだと報じられている。

 習近平国家主席はこうした批判や「一帯一路の負の事実」をかわすため、17年と19年4月に開かれた「一帯一路」国際協力サミットフォーラムで「国際ルールにのっとる」「内政干渉はしない」「体制を押しつけない」などと発言し、参加国の不安を取り除こうとしている。参加国にとっては、大局的に見れば欧州経済と中国経済の好影響を受けられると考えて、有利に交渉したいだろう。

 19年4月のフォーラムには、約150カ国の代表が出席した。そのうち政府首脳の参加は37カ国で、ロシアのプーチン大統領も参加している。日本からは自民党の二階俊博幹事長が出席した。米中対立の中で慎重なかじ取りが必要な場面で、まずは「参加」ではなく「協力」の姿勢を見せた。

photo 「一帯一路」構想のルート概念図(出典:アジア経済研究所・上海社会科学院共編『「一帯一路」構想とその中国経済への影響評価』研究会報告書、アジア経済研究所、2017年。図版作成は報告書の著者大西康雄氏とアジア経済研究所企画課山口絵里氏)

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