ワークマンの大ヒットは、「安いのに高機能でオシャレ」だからではないスピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2019年06月04日 11時15分 公開
[窪田順生ITmedia]
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ワークマンが成功した本当の理由

 ワークマンがよく言われるもうひとつの評価が「ホワイト企業」というものだ。業績が好調となった13年に、全社員を対象に1年ごとに、年収の3%にあたる額を年2回の賞与に加算して支給するという方針を表明。14年には、20年3月期にかけて全社員の平均年収を約100万円上げる計画も発表している。

 これは、利益を社員に還元することで労働意欲を高めるというのが一番の狙いだが、「政府はデフレ脱却のため、業績好調な企業に従業員の報酬引き上げを要請しており、これに応える」(日本経済新聞 2013年2月19日)ためでもあるという。

 「昭和の日本企業」は日本人が大好きな「高機能・低価格」を、労働者の賃金をなるべく低く抑えることで実現してきた。だから、日本商工会議所のような「昭和の企業」の集まりは、賃上げに強固に反対をするが、これはよろしくない。

 「賃上げ」に踏み切れない会社は労働者の意欲も落ちて、新しいアイデアやアクションが生まれない。「低賃金労働によって生み出す低価格・高機能」という高度経済成長期型の消耗戦からいつまでたっても撤退できないので、「気合い」と「根性」への依存度が増してどんどんブラック企業化していくからだ。

 このあたりの問題をよく分かっているのが、「外」の世界から情報を仕入れて自分たちが置かれた状況を客観的に見ることができる企業、つまりフィードバックが効いている組織である。

 自分たちを俯瞰してみれるから、マーケティングも成功する。品質のいいものをつくっていれば消費者は買ってくれる、というプロダクトアウト的な内向きな思考ではなく、「プロ向け作業着の品質を生かして激安なのに高機能でオシャレ」というイメージをどうすれば社会に広められるかというユーザー目線で柔軟な発想ができるのだ。

 ワークマンが成功した本当の理由は案外、そんなところかもしれない。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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