クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタの電動化ゲームチェンジ池田直渡「週刊モータージャーナル」プラス(3/4 ページ)

» 2019年06月12日 07時05分 公開
[池田直渡ITmedia]

小さなニーズを集める

 さて、普通に考えればこれだけでもトップニュースになるはずだが、説明会の最大のトピックスはほかにあった。大人げない提携話すら消し飛ぶテーマは何かというと、トヨタはついにEVでもうける方法を思いついたということだ。

 今まで「EVはもうからないからやりたくない」と逃げ回ってきたトヨタは、果たしてどんな方法を考えついたのだろう?

 テスラが切り開いた21世紀的EVとは、バッテリーを大量に積んで、航続距離問題を解決し、さらに自動運転やら何やらという高付加価値の全部盛りEV。言い方を変えれば高価であっても構わないプレミアムEVだ。日産のリーフはもう少々抑え気味だが、オールラウンダー型を目指していることは変わらない。

 というところで一回話が変わる。トヨタはここのところCASE(Connected:つながる、Autonomous:自律走行、Shared:共有、Electric:電動)とMaaS(Mobility as a Service:移動を伴うサービス)に熱心に取り組んできた。特にMaaSは地域の特性に強く紐(ひも)づくので、地域ごとに特徴のある形が求められる。

 例えば過疎地の老人の移動問題だ。池袋でのプリウスの事故を受け、高齢者への免許返納の圧力が強い中で、クルマが無いと病院に行けない人はどうしたらいいのだろうか? 「子供をひき殺したらどうするんだ!?」はごもっともだが、「老人は病院に行かずに死ね」と言い切れる人もいないだろう。要するに悲劇の社会現象的インパクトは違えど、この問題の本質はトロッコ問題(Wikipedia参照)だ。

 社会的リスクを低減しつつ、病院に行ける方法が確立していない。実はそこにこそ電動の超小型モビリティがぴったりはまる。現在でも、最高時速6キロ、免許がいらないシニアカーがあるが、トヨタはこれを高齢者の運転能力に合わせていくつか用意することを考えている。

 歩行速度領域をカバーする立ち乗りモデルと車いす連結モデル(時速2、4、6、10キロを切り替える。立ち乗りモデルのみ10キロまで対応)。そして最高速度時速60キロの超小型EVである。余談だが、歩行速度領域のモデルには、ユーザーの後ろを自動追従する「ポチ機能」、つまり犬の散歩のような機能が付いており、疲れるまでは徒歩で歩き、疲れたら乗って帰るという自助生活を補助する機能が搭載される。

 価格の問題を解決するために、これをサブスクリプションにして月額貸出モデルのMaaSにする。トヨタが以前発表して、いまひとつ何がどう良いのかわからなかったサブスクリプションサービスの「Kinto」が俄然(がぜん)ここで生きてくることになる。

 特に2人乗り4輪の超小型EVには、運転支援機能をしっかり装備する。あるいは特定地域内専用の自動運転機能を搭載する。ルートの選択肢がさほど多くない域内交通で、かつ速度が低いなら、自動運転の難易度は圧倒的に下がる。ましてや特定の行き先へ行ったり、自宅へ戻る機能に絞れるならば、あとは障害物を回避する機能だけあればいい。

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