クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向
連載
» 2019年06月12日 07時05分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」プラス:トヨタの電動化ゲームチェンジ (4/4)

[池田直渡,ITmedia]
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EVのゲームチェンジ

 こういうMaaSを考えている間にトヨタは気づいた。「あ、そうか、EVはオールラウンダーを目指すから複雑になって技術的にも売価的にも大変なんだ」

 そこで、トヨタは世の中で具体的に困りごとを抱えていて、つまりソリューションを心待ちにしているお客さんに、一本釣りで機能限定のEVをぶつけていけば売れるだろうと考えた。仮に1機種数千台しか需要がなくても、トータルではそこそこまとまった数になるんじゃないか? 10年ぐらい前に流行ったロングテールの考え方だ。

 どっちみちEVは月販何万台というスケールには当分の間ならない。だったら、他社と似たようなオールラウンドモデルを作って、出たとこ勝負で博打勝負するより、確実に売れるニーズに一つ一つ応えようとトヨタは考えた。

超小型EVや歩行領域EVのビジネスモデル(トヨタ資料より)

 例えば銀行とか電力会社とかの営業に使われている軽自動車。公的サービスの企業イメージからいえば環境負荷の低いEVを導入したいが、今の軽と価格差がありすぎて入れ替えできない。そういうニーズはあちこちに眠っている。

 つまり、EVの価格の大半を占めるバッテリーを削って、コストを下げ、航続距離の長さを求めない顧客に向けたEVを作れば、数千台の需要が見込める。それらを落ち穂拾いのように積み上げる。

 車両はシャシーを前、中、後と分けて、コンポーネンツを組み替え可能に構築しておいて、ニーズに応じてそれらの順列組み合わせで対応範囲を広げる。バッテリーの搭載量も可変にして、あとで増量が可能にしておく。それをサブスクリプションで回すのだ。

 日本で個別ニーズに対応してBTO(Build to Order)のノウハウをためていけば、海外の規制にも応用して数を稼げる。それはZEV規制(Zero Emission Vehicle規制)や、前述のCAFE規制の方にもじわじわ効くはずだ。

 利幅が薄くてもクレジットを買うよりマシだし、サブスクリプションビジネスなら、後でもうけられる。ディーラーまで無人自動運転で戻り、高齢者に向けてナビの行き先の登録を都度代行したり、充電や点検などを行って指定時間に自宅に配車するようなサービスも考えているという。有名な例でいえば、プリンターを利益ゼロで売ってもインクで継続的にもうけるやり方だ。MaaSはイニシャルでもうけなくていい。後でじっくりもうけることができ、そうやってディーラーの人々が地域住民の問題解決を提供することができる。

 これから少子化過疎化がさらに進む地域で、クルマを売るビジネスを続けていくのは難しい。クルマが売れなくなった地域から撤退という考え方では、地域の地盤沈下がさらに進んで地方が消滅してしまう。

 だからこそ、地域の問題解決をしてお金を稼ぐビジネススタイルに変えていった方がいい。そのためのMaaSだし、MaaSの手段としてのEVである。「すごい性能のEVを作ったから買ってくれ」と言うのは完全にプロダクトアウト型で、それでは商品が変わりこそすれ既存のビジネスモデルに過ぎない。しかもEVが普及するにはまだまだ時間がかかるだろう。むしろMaaSによるゲームチェンジを泥臭いところから落ち穂拾いで作り上げる堅実さに、トヨタのラストワンマイルの強さを見た。

 他社が高価で全部盛りの花形EVを発売して、メディアからやんやの喝采を浴びながら、足元では高すぎて販売が振るわないという姿を横目で見つつ、トヨタは内野安打で小さく稼ぎながら、EVの台数を積み上げようとしているのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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