電車は脱線すると困るから、できるだけ脱線しないように走ります。でも、人間の頭は脱線しなきゃダメなんですよ。
人のつくったレールを行けば、終点まではたどり着けるけれども楽しくない。脱線しなければ、いつも後をついていくだけ。絶対に前を追い抜けない。ずっと脱線しなかったら、最後までビリのままです。
だから、脱線や失敗ということに非常な意味があることが、ユーモアを解するようになるとだんだん分かってきます。
善悪を超越したところに新しい人間の価値があり、それは道徳的に非常にいいとは限らないけれども、面白い。
人間にとっての生きがいとなる、大きなもののひとつは面白さ。面白いことがあるというのは、非常な生きがいですよ。
常識的に考えれば脱線はよくないことだけれど、生き方としては、新しいことをするには脱線するしかないのです。コツコツと一生懸命やることがいちばんいいと思ってる人が多いわけですが、それとはまったく違うところに、人生の面白さがあるのです。
いわば「脱線のすすめ」。いくつになっても、どんどん「脱線」しましょう。
一見すると反社会的に見えるかもしれませんが、脱線する人がいないと新しいものが出てきませんから、世の中が成り立たないのです。(外山滋比古・談)
外山滋比古(とやま・しげひこ)
1923年、愛知県に生まれる。英文学者、評論家、エッセイスト。お茶の水女子大学名誉教授、文学博士。東京文理科大学英文科卒業後、雑誌「英語青年」編集、東京教育大学助教授、お茶の水女子大学教授、昭和女子大学教授を歴任。専門の英文学をはじめ、言語論、教育論など広範囲にわたり独創的な仕事を続ける。著書には240万部のベストセラーとなった『思考の整理学』(ちくま文庫)をはじめ、『100年人生 七転び八転び ―「知的試行錯誤」のすすめ』『思考力』『思考力の方法』『忘れる力 思考への知の条件』『「マコトよりウソ」の法則』(以上、さくら舎)など多数。
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