厳しい国際間競争にさらされている航空業界。国内2大エアラインの一翼を担うANA(全日本空輸)も今、生き残りを賭けた大規模な改革を進めている。その改革をけん引しているのが、ANAでイノベーション推進部の部長とデジタルデザインラボのエバンジェリストを兼任する野村泰一氏だ。
一度はANAを辞め、国内初のLCC(Low Cost Carrier)、Peach Aviationの立ち上げに参画したこともある野村氏は、一貫して“本質的な改革”に取り組んできたことで知られており、Peach Aviationではコストと効率を考えて開発した段ボール製の手作りチェックイン機の開発で世間をあっと驚かせた。
ANAに戻ってからも、利用者の予約からチェックイン、搭乗までの情報をデータベース化することによる、“顧客情報基盤の構築”や、ビーコンによるベビーカーと車椅子の管理、「ヒアラブル端末(イヤフォン型のウェアラブル端末)を使った機内コミュニケーション」などの取り組みでANAのサービスに新風を吹き込んでいる。
ANAのイノベーションに迫るインタビューの後編では、歴史ある企業にイノベーションをもたらすまでを追った前編に続き、イノベーションを加速させるための仕組みや、課題発掘のために開発したワークショップの効果について聞いた。
社内でイノベーションを起こす活動を続けていくうちに、技術やノウハウが社内に蓄積されるようになってきたANAのIT部門。野村氏は、これらの技術を「イノベーションハニカム」という独自の形で整理することにした。
これは、個々の要素技術を正六角形で表現し、関連する技術同士が互いに隣り合うように蜂の巣状に並べて図示したものだ。このイノベーションハニカムを設けた目的について、野村氏は次のように説明する。
「AIやIoT、ブロックチェーン、RPA(ソフトウェアロボットを活用した業務自動化の仕組み)といった個々の要素技術は、それ単体でも十分役に立ちますが、複数のものを組み合わせることで、さらに多くの場面で価値を発揮できるようになります。
異なる技術同士の関連性が分かりやすいよう、イノベーションハニカムのような形で配置し、図示することで、技術の組み合わせと業務ニーズとの間の関連付けをよりイメージしやすくしているのです」
また、技術そのものだけでなく、個々の技術に強みを持つエンジニア同士のコミュニケーションや連携を促す上でも、このイノベーションハニカムが効果を発揮しているという。
「これを見ることで、関連する技術に詳しいエンジニアをすぐに思い浮かべることができます。そうすると、『じゃあ、彼と彼に話を聞いてみようか』『ちょっとこの場に、彼も来てもらおうか』といった具合に、エンジニア同士のコミュニケーションも促進されるのです。こうして、特定の技術に強いエンジニアが、特定の分野や案件に閉じ込められることなく、ほかの領域に強みを持つエンジニアとも広くコミュニケーションを取るようになれば、自ずとイノベーションの幅も広がってきます」
こうした活動のことをイノベーション推進部では「ハニカムする」と表現しており、「ちゃんとハニカムしてる?」といった具合に日頃から言語化することで、そのコンセプトの浸透を図っているという。
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