文化学園大学(東京・西新宿)は4月23日、「Dr.マシリトと語る21世紀のMANGA戦略」と題する特別講義を開催した。
文化学園大学の「デザイン・造形学科 メディア映像クリエイションコース」では、多彩なゲストが出版・映像・Webのメディア状況を3年生に向けて語る、「新しいメディアのカタチ」という授業が行われている。その一環となる特別講義では、『週刊少年ジャンプ』の元編集長であり、現在は白泉社の代表取締役会長を務める鳥嶋和彦氏が招かれて登壇。同大学の特別外部講師・原田央男氏との対談を通して、デジタル化で大きく変わりつつある漫画業界の現状と今後について語った。
当日、学生のほか一般聴講者も詰め掛けた教室に登壇した鳥嶋氏は、90分の講義前のあいさつで「電子や紙媒体で定期的に雑誌を買っている人はいますか?」と、挙手を求めた。すると約半数の手が挙がり、「白泉社の新入社員より雑誌を買っているね(笑)」と鳥嶋氏。
実はここ数年、白泉社の新入社員に同様の質問をしているそうで、「定期的に雑誌を買っている」と答えた社員はゼロだったという意外な結果が語られた。出版業界の内側でも大きな変化が起こっていることがのっけから明かされ、原田講師からの質問で特別講義の幕が上がった。
原田: 今日はよろしくお願いします。戦後の書籍と雑誌の売り上げは1990年代半ばをピークとして、以後右肩下がりで落ち続けていることはよくご存じのことと思います。そして『少年ジャンプ』が653万部という、世界規模でも未曾有の発行部数を達成したのが1995年。しかもこの年は「Windows 95」が発売され、インターネット元年と呼ばれた年であったことも実に象徴的といえるでしょう。出版業界の業績が悪化した理由の1つが、まさしくPC、スマホ、タブレットといったデジタル機器の普及によるものだからです。紙媒体ではなく電子媒体で漫画を読む傾向が、今現在に至っても続いている。
日本の出版業界は世界の出版業界の中でも特殊なところがあって、活字本よりも漫画本のほうが売れるような形で営業が維持されてきました。しかしその漫画雑誌の主軸である『少年ジャンプ』ですら、部数減がずっと続いているわけですね。
そこでまず伺いたいのは、鳥嶋さんは『ジャンプ』が漫画誌のトップに上り詰めて以後、部数が下がり始めるという、大きな曲がり角の時期に編集長を務められたわけですけれども、当時はそういう事態にどう対処されようとしたのでしょうか?
鳥嶋: 『少年ジャンプ』に編集長として戻る3年前に、僕は『Vジャンプ』を創刊したんですね。その時は「1つのモニターにマンガ・アニメ・ゲームが映る」というコンセプトで始めたんです。ちょうど今、スマホでマンガ・アニメ・ゲームが見られるような状況が到来すると予測していたんですね。『少年ジャンプ』を出て新雑誌を創刊したのも、「漫画雑誌はもう終わるだろうな」と予測していたので、沈みかけた船から早く逃げたかった。それで『Vジャンプ』を創刊して、『少年ジャンプ』を逃げ出しました。
ところが会社は収益が全てなので、未来をどう予測するかといったこととは関係なく、収益が落ち始めると、経営陣は「目先の利益をどう確保するか」と考えるんです。『少年ジャンプ』の部数が落ちたら、『Vジャンプ』の未来なんかお構いなしに、僕を『少年ジャンプ』に戻せば部数が元に戻ると考えたんですね、愚かしくも。『ジャンプ』の部数が回復するなんてことは絶対にないと、僕は考えていました。なぜかというと時代がもう、漫画だけじゃなくてゲーム・アニメの状況に移ることが見えていたから。
それと同時に、『ジャンプ』の部数がどんどんと落ちていた最大の理由は、『ドラゴンボール』が終わったから。どういうことかというと、長く続いたヒット漫画が終われば、固定客だった読者が離れるんです。そうすると、今まで惰性で見ていた客がいなくなるので、雑誌の実態が見えるんですね。『少年ジャンプ』が面白くない、新しい漫画が出てきていないというのは、数年前からみんな分かっていたわけです。分かっていなかったのは、当の『少年ジャンプ』と集英社だけ。そういう状況だったんです。
あとですね、僕が個人的に思うのは、『少年マガジン』『少年サンデー』が創刊60周年で、『チャンピオン』『ジャンプ』がほぼ50周年。これはどういうことかというと、団塊の世代がちょうど子どもの時に週刊少年漫画雑誌が創刊されて、彼らの年齢が上がった時に青年誌が始まり、さらにいろんな漫画雑誌が始まる。結局、雑誌の流れを作ってきたのは全部、団塊の世代なんですね。彼らが老いていなくなれば、雑誌は落ちていくわけです。ちょうど今、人口動態の推移がこういうふうに出てきている。非常に明らかなことだと、僕は思います。
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