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» 2019年07月19日 05時00分 公開

『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【前編】マシリトが行く!(3/8 ページ)

[伊藤誠之介,ITmedia]

いかに早くサイクルを回してヒットの芽を探すか

原田: 非常に合理的な考え方だと思うんですけれども、『少年ジャンプ』に限らず漫画雑誌であれば、有望な新人作家の発掘も部数増の手段として欠かせません。鳥嶋さんはそちらについても、編集者時代から力を注いでいましたよね。

鳥嶋氏: 新人の発掘・発見と育成ですね。僕が戻った時の『少年ジャンプ』は、「パチンコ屋の新装開店と一緒だ」とよくスタッフには言っていました。中身は変わっていないのに、外の看板だけが別っていう。ヒットしていない、力がないと分かっている作家を“新連載”と打ったって、同じ人がやっていれば、読者から見れば焼き直しなんですね。読者に見え見えで、それじゃあ全然新しくない。今いる作家を一回全部捨てて、新しい作家を導入するしか、本当の意味での誌面の立て直しはできない。

 新人を使うことの最大の良さは、感性が読者に近いから、ヒットを非常に作りやすいんですね。さらに、新人はベテランに比べて構成能力は落ちるんですが、原稿料が安い。原価が安いから失敗しても響かないんです。新人の新連載を起こして、潰(つぶ)して、それをいかに早いサイクルでやっていって、ヒットの芽を探すか。これしかないんです。

photo 鳥嶋さんも鳥山明さんに多くの読み切りを描いてもらうことによってヒットの芽を探り当てた(『ドラゴンボール』のもとになった騎竜少年(ドラゴンボーイ)、『鳥山明○作劇場 2(ジャンプコミックス、集英社) 』より)

 実は『少年ジャンプ』の原点がそこにありまして。さっきも言いましたけど、『ジャンプ』は『マガジン』『サンデー』から約10年遅れて創刊したんですね。『少年ジャンプ』が10万5000部で創刊した時に、『マガジン』『サンデー』は100万部。作家をリクルートに行っても、作家のところに後から講談社や小学館の編集者から電話がかかってきて、全部断られる。結果的に、『ジャンプ』では新人を使うしかなかったんです。他に手がなかったので。

 だから、今に至る『ジャンプ』の三大編集方針の1つは、新人の発掘・育成・登用です。でも新人だから力がない。だから2つ目の編集方針は、作家と編集者が二人三脚で作る。徹底的に打ち合わせをする。『マガジン』『サンデー』は作家にお任せで、編集者がチェックしないんですね。原稿を頂いてくるだけですから。原稿を“玉稿”と呼んで押し頂いてくる。そういう編集部でしたから。

 それから3つ目は、読者の声を聞く。新人の原稿ばかり並んでいるので、本当の評価はどうなのか。部数が伸びないから「果たしてこの原稿はどうなの?」というのが、編集部の中でもあったと思うんですね。だから読者の声を聞こうということで、アンケートハガキで○を3つ付けてもらう。これが『ジャンプ』の三大編集方針です。

photo アンケートハガキで○を3つつけてもらい、読者の声を聞くことが『ジャンプ』の三大編集方針だ(写真:山本宏樹)

原田: 実際に鳥嶋さんの編集長時代にもそういう方針の下で尾田栄一郎さんを発掘して、『ONE PIECE』が新たな『ジャンプ』の主役となりましたね。

photo 鳥嶋さんが編集長時代に、編集部は『ONE PIECE』の尾田栄一郎さんを発掘することとなった(『ONE PIECE 1』(集英社)より)

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