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『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【前編】マシリトが行く!(2/8 ページ)

» 2019年07月19日 05時00分 公開
[伊藤誠之介ITmedia]

雑誌の発行部数ではなく、コミック1タイトルの総収益を新たな指標に

原田: 漫画雑誌がこれ以上売れないだろうと思った理由の1つとして、ゲームやアニメといった新しい娯楽メディアが出てきたからとおっしゃいましたが、鳥嶋さん自身はすでに編集者の時から個人的にゲームに親しまれていましたから、実感としてそう感じられたということでしょうか?

鳥嶋: えーとですねー……。申し訳ないですけど、僕は漫画よりゲームのほうが面白かったんです。いちユーザーとしてやっていて。なぜかというと、漫画は一回読んじゃうと終わりですけど、ゲームには学習効果があるんですね。一回壁にぶち当たって、なぜ失敗したかをもう一回分析して学習すれば、先に行けてクリアできる。ゲームは非常に理にかなっていて、フェアなメディアなんです。繰り返し遊べる。そういった意味で、僕はゲームって非常に好きだなと思っていました。

 あとね、ゲームをスゴイなと思ったのは、漫画でいちばん難しいのはキャラクターを立てることなんです。どういうことかというと、主人公を読者本人だと思ってもらう。それが漫画をヒットさせる最大のコツの1つなんです。主人公を自分だと思ってもらえれば、どんなエピソードでも自分の話になって、ストーリーの中に入っていってもらえて、ものすごく楽しんでもらえる。ところが、漫画ではいちばん難しいこのことが、ゲームではものすごく簡単なんです。コントローラーで動かすキャラクターが自分なんですから。漫画がすごく難しくて苦しむことを、ゲームは一発でできる。このメディアの特性や新しさには、シビれましたね。

photo 鳥嶋さんは『ウィザードリィ』などをよくプレイしており、ゲーム好きの一面がある(画像は海外版の箱絵、Wikipediaより)

原田: そこまでゲームに魅力を感じていたのであれば、それに対して編集長として、どう対抗しようと考えられたのでしょう? 

鳥嶋氏: さっき言いましたけど、部数自体が面白さの証明、読者がそれだけいるという証明ではなくなっていたんですね。『少年ジャンプ』に戻って分かったのは、相変わらず会社が部数だけにこだわっていて、単純な指標で仕事をしている。もう部数が戻らないのは分かっていたので、会社を納得させるためには部数とは違う数字の指標を立てる必要があった。

 今は出版社の誰もが分かっていることですが、漫画1タイトルから上がる収益がどれだけなのか。雑誌の収益、単行本の収益、それから漫画原作がアニメになることで入ってくるロイヤリティー。こういうものを含めたトータルで、1つの作品がどれだけの収益を生むか。その総計が雑誌の収益であって、それをどういうふうに上げるかが大切だということを、会社の中で提案したんです。

 結局会社って、お金が儲(もう)かればいいので。部数を上げるよりも、そういう数字を上げることのほうがはるかに合理的で、理にかなっていて、現場も疲弊しないで簡単だと、説明と説得をしたんですね。

photo 鳥嶋さんはメディアミックスに早くから取り組んでいた(写真提供:文化学園大学 深田 雅子)

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