インタビュー
» 2019年07月22日 05時00分 公開

マシリトが行く!:『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【後編】 (1/8)

『ジャンプ』伝説の編集長、マシリトこと鳥嶋和彦氏による特別講義の後編――。コミケの初代代表である原田央男氏がリードする形で、文化学園大学の学生からの質問に直接答えた。

[伊藤誠之介,ITmedia]

 文化学園大学(東京・西新宿)は去る4月23日、「Dr.マシリトと語る21世紀のMANGA戦略」と題する特別講義を開催した。

 文化学園大学の「デザイン・造形学科 メディア映像クリエイションコース」では、多彩なゲストが出版・映像・Webのメディア状況を3年生に向けて語る、「新しいメディアのカタチ」という授業が行われている。その一環となる今回の特別講義に、『週刊少年ジャンプ』の元編集長であり、現在は白泉社の代表取締役会長を務める鳥嶋和彦氏が登壇。記事の前編(「『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【前編】」)では、同大学の特別外部講師・原田央男氏との対談を通して、デジタル化で大きく変わりつつある漫画業界の現状と今後について熱く語った。

photo 鳥嶋和彦(とりしま・かずひこ)白泉社代表取締役会長。1976年に集英社へ入社後、『週刊少年ジャンプ』編集部に配属される。編集者として鳥山明、桂正和に代表される多くの漫画家を育成。『ジャンプ放送局』や『ファミコン神拳』といった企画ページも担当し、1993年には『Vジャンプ』を立ち上げた。原稿を容赦なくボツにする“鬼編集者”としても有名で、『Dr.スランプ』のDr.マシリト、『とっても!ラッキーマン』のトリシマンなど、ジャンプ連載作品に登場するキャラクターのモデルにもしばしばなっている(以下、撮影:山本宏樹)
photo 原田央男(はらだ・てるお)大学在学中に漫画批評同人サークル「迷宮」を仲間と共に結成し、1975年から開催されている日本初の漫画同人誌即売会「コミックマーケット」の初代代表となった。以後“霜月たかなか”のペンネームで、漫画・アニメーション関連の記事や著作を執筆するフリーライターとして活躍し、鳥嶋和彦氏とは『こちら葛飾区亀有公園前派出所大全集 Kamedas』を始めとして、その下でムックや書籍の編集・執筆に多く携わっている。著書に、霜月たかなか名義の『コミックマーケット創世記 (朝日新書)』など

 講義の後半は鳥嶋氏の希望により、聴講者からの質問に鳥嶋氏が直接回答する形で講義が進行した。読者ターゲットでもある大学生から生の意見を聴きたかったという鳥嶋氏は、編集志望者も多くいた生徒たちに対して率直な言葉で自身の思いを伝え、講義はさらに盛り上がった。

『ONE PIECE』は売れないと思っていた

原田: まず、事前のアンケートで学生から鳥嶋氏に寄せられた質問を読み上げていきます。最初は「編集者になるためには、どんな勉強やスキルが必要ですか?」。

鳥嶋: これは『ジャンプ』編集部の見学にやってきた小学生によく言っていたことなんですが――。まずその1、国語を勉強する。どういうことかというと、漫画は絵とせりふでできている。せりふは話し言葉でできていますから、絵を隠しても誰がしゃべっているのか、きちんと分かるしゃべり言葉を作れるかどうか。これは漫画家の1つのセンスです。

 ヒット作を生んだ漫画家は、文章を書かせても、みんなものすごくうまいんです。味のある文章を書く。編集者の文章は形が整っているけど、ほとんど面白くない。だから国語をちゃんと勉強してください。

 その2、友達をたくさん作ってほしい。これはどういうことかというと、キャラクターをたくさん知っていないと、キャラクターの描き分けができないんです。「イヤなヤツでも、どこがイヤなのか観察してくれ」と、僕は言うんです。そういうことをちゃんと知っておかないと、キャラクターは描けない。これが2番目。

 3番目。身体を鍛えておく。週刊誌連載はものすごくハードですから。鳥山明先生が「おろしたてのパンツを履くよりキツイ」とよく言っていましたから(笑)。体力勝負です。

 あともう1つ、真面目に付け加えると、好奇心を持ってほしい。他人が何かを面白いと言ったり、何かに並んでいたり、何か流行(はや)っていると聞いたりしたら、必ず首を突っ込んでみてください。よくありがちなのが、バカにして「あぁ、アレね」って、こういうのがいちばんダメです。僕も時々そういうことに陥りがちなんですけど。

 なぜなら、僕らが相手にしているのは基本的に子どもですから。子どもの視点で物を見て、面白いかどうかが自分の中で整理できないとダメですから。好奇心を持ってください。

photo 学生たちの質問に丁寧答える鳥嶋さん

原田: 次は「鳥嶋さんが担当された漫画家さんの中で、いちばん苦労されたのは誰ですか?」

鳥嶋: 苦労した……!? いちばん苦労したのは『ピアノの森』の一色まことさんかな。彼女の最初の連載は、僕が担当した『少年ジャンプ』の『はなったれBoogie』という漫画なんです。連載会議を通って、連載が決まったと伝えた時に、「連載を止めたいんです」って言われて(笑)。それがいちばん大変でしたね。

photo 『ピアノの森』(講談社、Amazonより)

原田: 「鳥嶋さんが、自分では売れないと思っていたけれど、実際は売れた漫画は?」という質問ですが、これは『ONE PIECE』でいいんですよね?(笑) 

鳥嶋: はい、『ONE PIECE』でいいです(笑)。今もって僕は、『ONE PIECE』を3巻までしか読めないですね。漫画の面白さは分かるんですが、残念ながら、あの漫画の画面構成が、僕にはよく理解できません。

photo 鳥嶋さんはいまだに『ONE PIECE』を3巻までしか読めないという(『ONE PIECE 3』(集英社、Amazon)より)

原田: 次は僕も、コミックマーケットの初代代表として心が痛む質問なんですが(笑)。

 「漫画家さんの持ち込みを待つよりも、個人で同人誌を出している人をスカウトするほうが手っ取り早いと思うのですが、それでも持ち込みから新人を発掘する理由はなんですか?」

鳥嶋: 実はコミケに興味を持ちまして、(※編注:1983年夏のコミックマーケットに)堀井雄二さんと取材に行って、『ジャンプ』の誌面に記事ページを作りました。コミケのカタログに『ジャンプ』のロゴまで載っけたら、コミケのファンから大ブーイングを受けたんですが。

 そこで何人かスカウトして、打ち合わせをしました。その結果、コミケにいる人たちはダメだと分かりました。なぜかというと、“直し”ができない。好き勝手に書くことはできるけど、直しができないんですね。ということは、プロに向かないんです。

 直すとは、描いたものを読者とつなげる、読者に近づけるということです。読者につなげられない作家は、原稿料をもらえない。基本的に、コミケの漫画はほとんど“ごっこ遊び”ですから。他人のキャラクターに勝手に乗っかって、ごっこ遊びをしているだけですから。オリジナリティーがないんですね、非常に厳しいことを言いますけど。

ヒットした漫画の共通点は「子どもに伝わっている」

原田: では「鳥嶋さんが担当された漫画の中で、ヒットした漫画に共通点はあると思いますか?」

鳥嶋: あります。子どもに伝わるということですね。子どもに伝わってヒットしたものは、大人でもヒットするんです。逆はないです。

 さっき(記事前編)も言いましたけど、「主人公は自分だと思わせる」。そうすればどんな冒険でもどんなストーリーでも、自分のことだと思って読んでくれるんです。ここがポイントなんですね。子どもに「自分だ」と思わせるためには、やっぱり明快じゃなきゃいけない。分かりやすくなきゃいけない。だから前向きで明るくて、という主人公が多いです。ヘンに影があったりとか、ヘンにクヨクヨ悩むヤツはダメなんですよ。

 ただですね、1つだけ考えさせられたのは、僕が現場で漫画を作っている時に、『機動戦士ガンダム』が当たっているというので劇場に見に行ったら、アムロっていうグダグダ悩んでいる主人公を見て、「なんてアニメだ」と思ったんですね(笑)。じゃあなんでヒットしているかというと、これはこれで1つの等身大だなと思ったんです。もう少し年齢が高い人に向けて。

 ただ、『ガンダム』がうまいなと思ったのは、主人公の脇にカッコイイ、ちゃんとしたヤツが出ているんですね。シャアっていう。ここはうまいなと。グダグダしたヤツだけだとヒットにはならないけど、シャアを作っているあたりに、僕はプロとしての腕を感じました。

photo 鳥嶋さんは「アムロに加えてシャアを作っているあたりに、プロとしての腕を感じた」という(『永遠のライバル アムロとシャア (竹書房文庫)』)
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