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» 2019年07月22日 05時00分 公開

マシリトが行く!:『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【後編】 (2/8)

[伊藤誠之介,ITmedia]

編集者は漫画家の才能をいち早く理解して、本人に悟らせなければならない

原田: 次は今の質問に関連した問いで、「“キャラを立てる”とはどういうことでしょうか?」

鳥嶋: 僕は新人漫画家に対してよく言うんです。

 「君が大好きな女の子を口説いて、やっとデートの約束にこぎつけて、デートに向かった。その途中で交通事故があって、目の前に人が倒れている。さぁ、どうする?」

 普通はそのままデートに行きますよね。倒れているのは、知らない人だから。だけど「これが君の兄弟だったらどうする?」。助けるよね。デートを諦めるよね。なぜかというと、倒れているのが自分の身近な人だから。これがキャラクターを立てるということです。

 読者に、キャラクターを身近だと感じさせる。「この人は私の知り合い」だと感じさせる――。これがキャラクターを立てるということです。

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原田: こういう質問もあります。「鳥嶋さんの座右の銘はなんですか?」

鳥嶋: 色紙に書くような言葉? 集英社時代は「世界征服」でしたけどね(笑)。今はなんだろうなぁ……。「五里霧中」ですかね。

原田: それでは「鳥嶋さん個人のなかで、バイブルとなっている漫画はありますか?」

鳥嶋: バイブルというか感謝しているのは、ちばてつやさんの『おれは鉄兵』ですね。僕は『ジャンプ』の漫画が嫌いだったので、ずっと小学館の資料室で昼寝してたんですが、フッと見たら『ジャンプ』に限らずいろんな漫画があって。それを片っ端から読んだんですね。そうすると、漫画には読みやすい漫画と読みにくい漫画があることに気づいたんです。

 それで、トーナメント方式で読みにくい漫画を外していって、最後に残ったのが、ちばてつやさんの『おれは鉄兵』でした。その1話19ページを、なぜこのコマ割りなのか、なぜこのアングルなのか、このコマとコマの関係はどうなのか、見開きでどういうふうにコマを組んであるのか、それを考えながら50回読んだんです。それで漫画の文法、コマ割りが分かったんですね。

 それが正しいのかどうか、新人漫画家に対して打ち合わせの時に使ってみたら、見る見る漫画がうまくなって、それまでは漫画“っぽかった”のが、漫画になっていく。それを一緒にやっていって、いちばん具体的に成果があったのが、鳥山明さんですね。そういう意味では、ちばてつやさんの『おれは鉄兵』に感謝していて。つい最近、Amazonで買ってもう一回読み直したんだけど、やっぱりちゃんとしています。時間と興味があったら、他の剣道漫画と、読み比べてみると面白いと思います。どこが違うか、考えて読むと勉強になります。

原田: 「鳥嶋さんの知っている範囲で、漫画の編集者はどういった人が多いですか? どんな人がなぜ漫画の編集者になろうと思ったのか、気になります」

鳥嶋: いい漫画編集者になろうと思ったら、漫画をあまり読まないほうがいいんじゃないですかね。いちばん向いていないのは、漫画が好きすぎて、打ち合わせの時に自分の漫画の好みを漫画家に押しつける編集者です。これがいちばん邪魔。いてほしくない。 漫画編集者にいちばんふさわしいのは、目の前の人間の才能を理解して、これをなんとか世の中に出したいと思える人間ですね。

 要するに、自分の手の中に何かをギュッと握っている人間は、編集者には向きません

原田: 次です。

 「漫画家と組んで漫画を企画・構成していく上で、いちばん大事なことはなんでしょうか?」

鳥嶋: その漫画家の持っている良さを、編集者がどれだけ早く理解し、漫画家本人に悟らせるか、ですね。僕はよく言うんですけど、漫画家が描きたいものって、実はいろんなものを見たコピーなんですよ。本人が描けるものとは違うんです。いろいろ読み切りを描いて、読者の反応を見ていると、漫画家が描きたいものはたいていウケないんです。

 それを潰していって、作家の中に自分しか描けないものが見つかった時に、それを読者に提示すると、読者にちゃんと伝わるんですね。それが描けるものです。それが漫画家の原点、オリジンです。オリジナルという言葉は、僕はそこから来ていると思っています。 自分の原点を描ける作家からヒット作が生まれる。そういう意味では、最後は人間性だと思います、漫画家は。

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