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» 2019年07月22日 05時00分 公開

マシリトが行く!:『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【後編】 (7/8)

[伊藤誠之介,ITmedia]

経営者は「お金は使ってもいいけど、ムダ金を使うな」と言わなきゃいけない

――デジタルだと、PV数とかで半永久的に評価され続けるぶん、「売れるものしか作っちゃダメ」みたいなところも出てくると思うんです。そういったなかで紙の雑誌的なものって、今後どういうふうに求められていくのかなと。求められないかもしれないんですけど、残していくべきポイントとかがあるのかなと。

鳥嶋: 雑誌の“雑”は、いろんなものがあるということなんですけど、もうそれを読者が望んでいない。今日、最初に聞いたのはそこなんですね。

 ここにいる方は、思っていたよりもマトモなのでビックリしました(笑)。白泉社の新入社員に「なぜ雑誌を買わないのか?」と聞くと、「手が汚くなる」「好きじゃないものが載っている」「持ち運びに不便」と、そういう意見なんです。最初は「えーっ!?」って思うんだけど、自分が読者だとすると、ある部分、頷けるものがあるんですね。よっぽど自分が好きな情報が載っているものじゃないと、やっぱり雑誌は買わないなって。

 でも本来、雑誌はそういう形で始まって、広まってきたんです。そういうことでいうと、もう一回、雑誌が雑誌であることの意味、その価格で読者が手に入れることの価値が、問われると思うんですね。

 僕が会社に入っていろいろ言われたなかで、心に残っている数少ない言葉の1つが、「鳥嶋君、キミが作っているその雑誌を、自分だったらその値段で買う? 買いたいと思わないんだったら、それは市場性のない雑誌なんだよ。仕事だからその値段をつけてるんじゃない?」というもので。そこはやっぱり常に考えますね。

 だからそういう意味で言うと、雑誌に残されたたった1つの意味は、才能が競って作品を読者に提示していくということと、そこで作家・作品を育てるということ。この場所として、たった1つの意味がある。これがデジタル、ネット上でうまくできるようになったら、雑誌は本当にいらない。これをどこで編集者がちゃんと見つけられるか。

 あと、そもそも出版社に入るのは、デジタル的なものにあまり興味がないので出版社に行こう、みたいな感じだと思うんですが、これからは社外の技術者と組む時も、自分がどうしてほしいのかの要望や質問を形にできるだけのデジタルの知識がないと、編集者は難しいと思います。そういう意味では出版社の社員の在り方や、編集者の採り方も変えていかないといけないと思います。

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――鳥嶋さんが集英社から白泉社に移られて、「文化が違うな」といちばん思われたことはなんですか? 

鳥嶋: 白泉社には集英社ほど、どうしようもないダメな社員はいなかったですね(笑)。その代わり、ものすごく頭のキレる社員もいなかった。従業員100人の規模は、いい意味でも悪い意味でも、みんなお互いに知っているんですね。そういう意味では、意思疎通が非常にうまくできる単位なんですよ。派閥がない会社なんです。だから居心地が良すぎて、ある種の競争原理が働いていない。

 だからそこは意識的にかき混ぜて、外の空気をどれだけ入れるか、会社の外にどれだけ行ってもらうかということを、社長の方針としてやりました(関連記事「『最近の若い奴は』と言う管理職は仕事をしていない――『ジャンプ』伝説の編集長が考える組織論」)。その結果、かなりの部分で積極的に何かをやろうという機運になってきた。

 いちばんマズかったのは、歴代の社長および経営陣が「お金を使うな」と言っていたことです。それはマズイですよね。お金を使わないということは、設備投資をしない、才能に投資をしないということだから、新しいものは作れないですよ。正しくは「お金は使ってもいいけど、ムダ金を使うな。使った結果をちゃんと検証しろ」と言わなきゃいけない。

 白泉社は今、僕が3年間で土壌作りをやったので、いい会社です。入るのにオススメの会社だと思います(笑)。

photo 鳥嶋さんが会長を務める白泉社では、漫画家と編集者をマッチングする「マンガラボ!」を立ち上げるなど、新しい才能を発掘する場を意欲的に創出している

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