クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

スバルが生まれ変わるために その1池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2019年07月22日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 ちょっと話が変わる。ぐるっと回って戻ってくるまで少々かかるが、許して欲しい。北米でスバルの広告戦略の大成功例として、「LOVEキャンペーン」がある。この戦略の面白いところは、スバルのクルマそのものはほぼ訴求しない点にある。安全性の話も耐久性の話も一切出てこない。

 スバルは北米のユーザーの中から1万人を超えるアンバサダーを選定し、彼らの活動をサポートする。彼らの活動は「LOVE」で結ばれたあらゆることである。その多くはボランティアによる社会貢献活動で、自然保護であったり、子どもの病気へのサポートであったり、とにかく世の中を良くしていきたい善意の発露だ。実質的な見返りは雀(すずめ)の涙程度のクーポン券があるのみで実質ゼロ。

リヤウィンドーに貼られたスバルアンバサダーのステッカー

 少し意地悪な言い方をすれば、「善意と正義」が大好きなアメリカ人の気質を、スバルは後押ししているだけだ。そのくせ毎月活動レポートを上げないと、アンバサダーの資格は剥奪(はくだつ)されてしまう。かなり理不尽な感じだが、そこに「おもねらない」スタンスがあることがアメリカ人の気持ちを打った。アンバサダーが個人でやり切れないことを、時にスバルはサポートする場合もあるが、原則的には個人の活動である。

 こういう時代だから、アンバサダーは自身の活動のために当然SNSなどを通じて、ネットワークを広げていく。その過程で、時にスバルに関するさまざまな相談も自然に受けて、ここが大切なのだが「アンバサダーたちはあくまでも自分の見解でそれに答えていく」。彼らはあくまでもスバルユーザーの先輩であり、スバルの中の人ではない。ただ、スバルが自分の社会貢献活動を後押ししてくれることに感謝して、スバルというブランドを愛している。日本のスバリストとちょっと似ている部分もあり、全然違う部分もある。

 つまりLOVEキャンペーンは、スバルの魅力をスバル自身が何も訴求しないこと。そこにLOVEがあればスバルはそれでいいとするスタンスが受けた。それは明らかに新しいやり方だったし、非常に興味深い。しかしながら、だからスバルが自身の戦略を語らないでいいのだということにはならない。それはそれ、これはこれである。

 北米ビジネスの成功について、何の戦略があり、何をしようとしているのか、それを知りたい。ただそれだけのことを言う筆者と、スバルの議論はかみ合わない。そして舞台を日本に移して、この取材は続く。

 <明日掲載のその2に続く>

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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