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池澤夏樹が明かす作家哲学 「“飽きる”ことも仕事のうち」池澤夏樹インタビュー【後編】(2/5 ページ)

» 2019年07月31日 05時00分 公開
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3・11によって見つめ直した「日本」

――とはいえ、池澤さんが個人編集した各全30巻の『世界文学全集』と『日本文学全集』は、「飽きっぽい」ではできない仕事のように思えます。

池澤: 『世界文学全集』の時は比較的見通しがあってやっていましたが、『日本文学全集』は見通しが無いままやりました。

 『世界〜』が4分の3くらいできた時、河出書房新社の社長が『池澤さん、日本文学もやろう』と言ったのです。僕は「日本文学のことは、僕は何も知らないよ。別の人とやったら」と返事しました。しかし、『世界〜』が完成した次の日が3・11(東日本大震災)だったのです。

 東北に通ってレポートする中で、「とんでもないことになったな」と。あの年は情けなくって、みんなでよく泣きましたよ。「何という自然災害の多い国なんだ」と。そこで日本という国を考え直そうと、関心が世界から日本に戻ってきたのです。

 私はその前はフランスにいたので、「この時期に日本にいられて良かった。間近で(震災を)見られたから」とも感じました。そうやっているうちに、「この自然条件の下で暮らしてきた人たちとは?」という方向に関心が向かい、日本文学全集を作ったらそれが分かるかもしれない、と考えました。

 今だから言えますが、本当に(日本文学を)読んでいなかったのですよ。世の中にはけっこう大きな仕事なのに、うかつに始めてしまってしょうがなく必死で進めていたら、気付いていたらできている、というものがある。そういうのが大仕事の良い例です。

 僕も大変だったけれど、(源氏物語の現代語訳を担当した)角田光代さんはもっと大変だった。(翻訳している)その間、彼女はほとんど小説を書いていないのです。「小説を止めてこっちをやる」と宣言したのだから。おかげで僕は編集者に恨まれています。「脂の乗った角田光代を4年間独占した」と(笑)。

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