吉本興業がテレビ業界から干される日専門家のイロメガネ(5/7 ページ)

» 2019年08月02日 07時12分 公開
[中嶋よしふみITmedia]

家族発言から透けて見える経営陣のDV体質

 5時間半に及んだ会見ではおかしな回答が多数あったが、繰り返されたのが「家族・ファミリー」という発言だ。これはうそやごまかしではなくおそらく社長の本音だ。

 ファミリーや家族は一般的には良い意味で使われるが、「関係の壊れた家族」ならばどうか。分かりやすいのは、家族間で暴力や暴言が発生するDV(ドメスティック・バイオレンス)だ。子どもに殴る蹴るの暴行を振るう親でも、道端ですれ違った他人を突然殴ったりはしない。警察に通報されるからだ。

 しかし家族ならば、一発や二発殴ったからといって即警察沙汰とはなりにくいだろう。つまりDV加害者は相手によって暴行していいかどうかを判断している。家族なら殴っても大丈夫、蹴っ飛ばしても警察沙汰にはならない……。これは家族だからこそ発生する究極の甘えだ。

 吉本の経営陣にとっての家族関係は、DV的なものか、そうでなかったら「誰のおかげでメシを食えてるのか?!」と無意識に言い放つような壊れた家族関係なのだろう。

 そしてこのような「家族関係」が推測ではなく、実際に吉本と芸人の間に存在していることを、会長がインタビューで明言している。芸人と契約書は交わさないが、外部企業とは契約書を交わすという。つまり家族には冷たく、家族ではない外部とは通常の取引をしている。

 「吉本は長年、諾成契約という口頭による契約を交わしてきた。紙の契約書はないが、契約は存在する。法的にも問題なく、今後もこの契約方法は変わらない、芸人がテレビや映画に出演したり、書籍を出したりする時は、相手の会社と書面で契約を交わしている」

 「例えば、明石家さんまに、契約書作るで、なんていったら、彼はおそらく、何を今更、そんな水くさいことを、大崎さん頭おかしいんとちゃいますか、と笑い飛ばして終わりだろう」

 吉本興業会長「反社会勢力との決別徹底」 闇営業問題 日本経済新聞 2019/7/13

 意図的ではなく感覚的に、しかも昔からの慣習だからと深く考えず、問題を指摘されても自分達と芸人の家族関係だからと無視をする。そして公取委のような公的機関が出てきてやっと態度を改める……。

 「社長の言葉づかいは昔から乱暴だ」とダウンタウンの松本氏は指摘し、自身のマネージャー時代には注意をしたほどだという。芸人との契約から言動まで、経営者のDV体質は何十年も前から培われたもので、ちょっとやそっとでは変わらない。乱暴な対応をファミリーという言葉で誤魔化し、タチが悪いことに誤魔化している自覚すらない。今後吉本はあらゆる取引先と謝罪や関係改善の交渉をすることになると思うが、経営者のDV体質は最大の障害になるだろう。

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