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» 2019年09月06日 07時00分 公開

業務を効率化するITツールの最新事情:Slackで老舗出版社の業務はどう変化したか 文春オンラインの情報共有術 (1/2)

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

 前回、Slack導入における基礎知識と概要について紹介した。Slackの強みの1つは、多くの導入事例がすでに存在しており、口コミやブログなどに公開された情報をもとに、自分の組織に合ったユースケースを探し出し、自己流にアレンジできる点にある。

 Slackの使い方は企業によって千差万別であり、参考になりそうな事例を探し、自身の組織に適した使い方を見つけ出していくのもまた醍醐味だろう。

Slackジャパンのオフィス内にあるコーポレートロゴ

 Slack側もこうした事情をよく把握しており、定期的にセミナーなどを開催して、積極的に成功体験の共有を行っている。今回筆者が参加したのは7月に開催されたメディア企業での活用事例を紹介したセミナーだが、いくつか参考になるポイントがあったので紹介したい。

事例が日々蓄積され、その多くが共有されて新たな成功体験を生み出すのが強み

Web部門の新設で情報共有ニーズの高まった文藝春秋

 文藝春秋といえば、大正時代に作家の菊池寛が文芸作品発表の場としての「文藝春秋」を発行するための会社として設立された老舗出版社で知られる。最近でこそ「文春砲」のような“軽い”イメージがあるものの、その業務の多くは雑誌や書籍などの刊行物を中心とした昔ながらの紙の出版社だ。

 同社のオール讀物・別冊文藝春秋編集長の大沼貴之氏によれば、基本的に編集部ごとの独立採算制で横の連携はほぼないに等しく、それぞれが独自にコンテンツを作っているというのが文藝春秋の経営スタイルだったという。

文藝春秋の従来の業務体制

 とはいえ、老舗出版社であっても時代の変化の波には逆らえない。まず会社のWebサイトを作り、その中で各編集部のコンテンツを束ねるWebサイトを用意するにあたって、「本の話」「CREA Web」「Number Web」の3つのサイトが登場し、「編集部を横断したコンテンツ制作体制」というものが出現した。

 次なる大きな変化が2017年にスタートした「文春オンライン」で、いわゆる週刊文春のコンテンツが軸となり、主に文藝春秋や書籍側のコンテンツを包含するコンテンツ制作体制を用意する必要がでてきた。

 各編集部内の情報共有だけであればそれほど問題にはならないものの、編集部を横断するコンテンツが出現した以上、各編集部の担当者内で連携を取る必要がある。

 しかも文春オンラインは毎日更新が行われる、比較的ニュースサイトの性格を持ったWebメディアであり、よりスピード感やタイムリー性が要求される。これが「情報共有」に対するニーズの始まりだ。問題意識としては、会議などの調整業務負担が増したことと、関係者間での情報格差が拡大したことが挙げられる。そうしたなか、情報共有ツールとしてのSlackに白羽の矢が立ったというわけだ。

各編集部がWebコンテンツを持ち、横連携の必要性が出てきた

 Slackの本格活用がスタートしたのは、デジタルデザイン部の浪越あらた氏が入社してからで、文春オンラインの各種設計業務に外部開発者と連携するためのツールとしてSlackを活用できないかと考えたのがきっかけだったという。

 もともと同社では、Slackがフリープランで導入されていたものの、放置されたままの状態であり、この整理統合から着手することにした。まず乱立していたワークスペースを整理し、粒度が粗めの情報を流す。情報量はパッと見た感じで分かる程度のものに制限し、趣味のチャンネルを通じて空気感を演出した。

 こうした工夫により利用者と投稿数は増え続け、本格利用開始から半年ほどが経過した19年初頭には一気に利用が進んだ。ボトムアップからスタートしたSlack利用だが、役員へのプレゼンテーションを経て社内広域にアピールが実施された後はさらに30人のメンバーが増え、メッセージ数も250件から400件と1.6倍程度に増加した。現在、344人中188人がSlackメンバーで、その利用率は54.6%になる。

文春オンラインのスタートにより、Slack活用が本格化
投稿数とユーザー数の時系列での推移
2019年7月時点でのユーザー数と利用率

 Slackの利用で大きな効果を上げたのが情報を探す時間の短縮。また、状況確認のためだけに行う会議がなくなり、全体の作業状況も把握しやすくなった。これまで個人が抱えていた情報が会社の資産として蓄積されるようになった他、当初問題意識としてあった「関係者間での情報格差」がかなり解消されたという。

 今後は、既存のSlackメンバーが“布教”という形で異動先の部署にSlackを浸透させるという構図でさらなる普及を図っていくとしており、「スモールスタートで拡大する」という、Slack成功体験の典型パターンといえるかもしれない。

デジタルデザイン部の浪越あらた氏(左)とオール讀物・別冊文藝春秋編集長の大沼貴之氏(右)
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