なぜデンマークは、消費税が25%でも軽減税率を導入しないのか専門家のイロメガネ(3/8 ページ)

» 2019年09月20日 07時15分 公開
[中嶋よしふみITmedia]

軽減税率は金持ちにお金をばらまく愚策

 2の対象品目については、軽減税率を適用する範囲を適切に決める事が難しいという話だ。現在多数報じられているような、馬鹿らしい区分けを真面目に決めることになる。これは1の徴税コストにも関わる。

 4の高所得者の方が恩恵を受けてしまうという話も、所得の高い人の方が当然のことながら食料品への支出額は多く、軽減税率のメリットをより多く受ける。1兆円の税収減が低所得者ではなく、高所得者や資産家により多く還元されることを考えれば、この事実だけをとっても軽減税率がバカらしいほどにロクでもない仕組みであることは明白だ。後述するが、多くの経済学者は軽減税率に反対し、低所得者への現金等による直接的な還元を主張している。

 3の税のゆがみについても深刻な問題をはらんでいる。特定の商品だけ税率が低ければ、当然のことながら法律の隙間をついて軽減税率が適用されないように脱法的な商品や販売方法が生み出され、いたちごっこになる事が想定される。実際、そのような事例がドイツで発生している。

軽減税率に反対したら女性差別と批判された話

 ドイツでは書籍に軽減税率が適用され、標準税率は19%だが書籍は7%だ。それを逆手にとって書籍に生理用品をセットにして販売した事例がある。多数の生理用品に加えて、書籍の部分には生理に関する内容が記されているという。

 筆者はドイツ人でもなければドイツに住んだこともないので、この書籍がどのように受け入れられているか知る由もないが(当然賛否両論だと思われる)、これはビジネスとしてよりも社会的なアクションを目的に行われたように見える。

 先日、日本で行われた参院選挙でも「なぜオムツは軽減税率の対象ではないのか?」と熱心に演説をしている野党候補がいた。何を軽減税率の対象にするかは各国で必ず議論の対象になる。

 日本ではアメ玉を一つセットにして売ればどんな商品でも食品として軽減税率が適用される、ということはない。当然ドイツでも書籍として認められる境界線があり、生理用品がセットになった書籍もドイツ国内では書籍として合法的に販売されているはずだ。

 しかし、いずれ法律が変更されてイタチごっこになる可能性もある。これはただ消費税を避けるための全く生産性のないやり取りだ。

 生理用品を本として販売したことは「良い話」として報じられているようだが、このようなビジネスが許されるのなら、あらゆる商品を本屋で書籍の形で売れば合法的な税逃れ、つまり脱法行為が可能になってしまう。

 そして筆者は先日Twitterで、「この話は決して良い話ではなく、軽減税率というロクでもない仕組みが産み出した、ロクでもない話だ」と指摘したところ、女性にとって生理用品は生活必需品なのにこれを否定するとは女性差別だ、と想像の斜め上をいく批判を受けてズッコケそうになった。筆者は軽減税率自体に反対なので差別も何も関係ないのだが、オムツと同様に何を軽減税率にするかで生産性のない議論が生まれることも大きなデメリットだ。

 今後は国会でも何を軽減税率に含めるのか、将来また消費税が上がる際には議論の対象となるだろう。オムツを対象にしないなんて母親に冷たい、生理用品を含めないのは女性差別、といった話が展開される可能性が十分にある。無駄の極致だ。

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