今年3月に行われた、多数の経済学者・政治学者が名を連ねる『軽減税率に関する緊急政策提言』では、軽減税率を止める事、還元が必要であれば「低所得者に限って」行う事が提案されている。その中でも、ポイント還元は高所得者にお金が流れる間違った対策であると批判されている。
それでもポイント還元は短期間で終わるので影響はまだ限定的だが、軽減税率は一度始めると辞められない可能性が非常に高く、絶対に導入すべきではないと強く警告している。
軽減税率は、対象品目を生産・販売する業界にとって既得権益となってしまうので、将来の税率の改定時にその既得権益を守ろうとするし、他の業界も新たに軽減税率が適用されるように働きかけるようになる。これも欧州各国で起こってきたことであり、軽減税率をいまだに撤廃できない理由でもある。軽減税率の問題を理解する各国の政策担当者及び国際機関の政策専門家は、新たに付加価値税を導入する新興国などに対して軽減税率を入れないように助言している。
軽減税率に関する緊急政策提言より 2019/03/28
日本の学者に加えて、駐日EU大使をトップとする駐日欧州連合代表部も同様の意見だ。軽減税率は問題を多数抱えた制度であり、経済発展の阻害要因にもなりかねず、EU各国が足並みをそろえるのは至難の業だが、時間をかけて改正に取り組んでいると伝えている(参照・欧州の付加価値税(VAT)―その現状と将来 PART1.2 EU MAG 2015/05/27)。
筆者は軽減税率を止めるべき、デンマークに学べと何度かSNSで書き込んだが、それに対してEUでは軽減税率がある方が普通で、デンマークの方が例外という指摘も度々受けた。しかし日本の学者やEU自身は、EUの現状が間違っていて、それどころか我々を反面教師に他国は導入すべきでないと警告している有様だ。
筆者が目にしたオムツを対象にしろと選挙で訴えていた政治家や、生理用品を対象にしないのは女性差別だというSNSでの反響など、危惧されている状況はすぐにでも生まれるだろう。
徴税コストを引き上げ、高所得者と資産家に優しく、雇用者数が多く利幅の薄い小売業や飲食業にダメージを与え、将来的に既得権益と化して、生産性のない無駄な議論まで引き起こし、すでに導入しているEUでは経済発展の阻害要因になりかねないとまで指摘されている……。
EUでは、1993年にできた暫定的な制度を補足・修正してきた中で、やっと抜本的な見直しをする段階まで来た軽減税率を、日本は令和の今になって導入しようとしている。
各種メディアは、軽減税率の複雑怪奇な仕組みをクイズのように面白おかしく伝えるようなことは辞めて、本質的な問題を伝えるべきだ。
そしてこの滅茶苦茶な制度にそれでも賛成するかどうかは、目先の支出をちょっと減らすことにどれだけ無駄な手間とコストがかかっているか理解できない「バカの壁」であると明言しておこう。
……ところであなたは軽減税率に賛成ですか? それとも反対ですか?
保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。日経DUAL、東洋経済等で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング