世界初の乗りもの「DMV」 四国の小さな町は“新しい波”に乗れるか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)

» 2019年10月04日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 このルートのうち、牟岐から後免(ごめん)までは鉄道で結ばれる予定だった。それが「阿佐線」だ。このスケールなら納得できる。しかし、阿佐線は牟岐〜海部間が開業した後、建設中止となってしまう。1980年に成立した国鉄再建法によって、開業しても赤字になる見込みの路線は作らないと決まったからだ。それでは着工された区間がもったいない、という話になり、高知側の後免〜奈半利間は土佐くろしお鉄道、徳島側の海部〜甲浦間は阿佐海岸鉄道という第三セクターをそれぞれ設立して工事を続行し開業した。

 DMV運行の舞台は徳島側の阿佐海岸鉄道である。JR牟岐線の末端であり、距離も短く、何しろ赤字必至と国に見放された路線だから、一度も黒字になったことがない。年間およそ5000万円の経常損失があり、設立に参加した自治体が補助金を投入し、意地で維持しているようなものだ。少子化に伴い乗客数も減り、公金投入を疑問視する市民も多いだろう。

四国みぎした55フリーきっぷ(出典:阿佐海岸鉄道公式サイト

2011年から徳島県を中心にDMVを検討

 そんな阿佐海岸鉄道にとって、起死回生の手段がDMVだ。マイクロバスに鉄道車輪を追加し、線路も道路も走行できるバスである。JR北海道がローカル線のコスト削減車両として開発したものの実現に至らなかった。その後、各地の赤字ローカル鉄道が関心を示したけれど、車両コスト以上に設備投資が必要となるうえに、鉄道車両より定員が少ないため実用面に難ありで、採用に至らなかった。それを徳島県は真剣にやると決めた。

 ここまでの経緯は、過去に3回にわたって紹介した。

 徳島県は2011年から阿佐海岸鉄道阿佐東線のDMV導入を検討し、同年と翌年に計2回の実証運行を実施した。本格導入に向けて16年に第1回阿佐東線DMV導入協議会を開催。17年2月の第2回協議会において、東京五輪でインバウンド需要が旺盛な20年を運行開始目標とした。また、DMVのモードチェンジ駅を甲浦駅とJR牟岐線の阿波海南駅とし、海部〜阿波海南間はJR四国から譲受したい考えだ。

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