世界初の乗りもの「DMV」 四国の小さな町は“新しい波”に乗れるか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)

» 2019年10月04日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

観光推進組織が起動、視察と広報戦略を模索

DMVの車両にはトヨタのエンブレムが付いている

 DMV導入目的は「阿佐海岸鉄道の経営改善」「南海トラフ地震の被災者支援」「地域活性化」の3本柱だ。そのなかで、第2回協議会から、DMV導入の目的として「世界初、オンリーワンの技術運行で阿佐東地域を活性化」「車両自体が観光資源として観光振興に大きく寄与する」が筆頭に掲げられた。

 その取り組みの中心が「あさチェン推進会議」という官民共働組織だ。名前はDMVのモードチェンジにかけて、阿佐東地域をDMVで変えていくという意味を込めたという。参加者は徳島県海陽町と高知県東洋町の関連部局、それぞれの街の観光協会、商工会など。

 この組織が9月25日に広報誘客部会を開催した。約20人の参加者が阿佐東線を試乗し、マイクロバスで沿線の観光地を巡った。阿佐東線は前述の通り、国鉄が運営する高規格鉄道として建設されたため、高架区間とトンネルが多い。だから駅と地上の高低差が大きく、乗りにくい路線ともいえた。しかし、高架区間からの眺めは見晴らしも良く、まるで低空遊覧飛行のような感覚で海と街を望む。DMVなら、ここからバスモードで街中の観光スポットへ直通できるとあって、メンバーのほとんどが観光誘客の成功を予感した。

 実は、この地域に住んでいながらも、阿佐東線に乗ったことがないという人は多い。地方鉄道ではよく聞く話である。通学に使わず、車の免許を取れば鉄道に縁がないし、海の魅力にひかれて移り住んだ人々はもとよりクルマが生活の中心だ。だから鉄道には無関心。道具として便利さを感じないからだろう。

 しかし、DMVを「楽しいもの」「面白い乗りもの」と考えたらどうか。しかも世界に一つだけの乗りものだ。これはちょっと誇らしい。遠くに住む友人や親戚に「乗りにおいでよ」と誘うネタになる。「サーフィンやりにおいでよ」より誘いやすいかもしれない。DMVを目当てに国内外から乗りもの好きが集まる。人が集まれば街の活気が増す。宿泊施設の稼働率は上がり、土産物や生産物も売れ、飲食店はにぎわうかもしれない。自分はDMVに乗らなくても、DMVのおかげで潤い、楽しくなりそうだ。そうなると無関心ではいられなくなる。

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