クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ダメなカローラと良いカローラ池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)

» 2019年10月07日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 まず2000年代のトヨタが、めちゃくちゃイケイケだったこと。これは背景の一つだと思う。毎年50万台ずつ販売が伸びた。2年でスバル1社分である。08年の連結営業利益は1兆7200億円を記録。いよいよ2兆円が見えてきた、というタイミングでリーマンショックを迎え、翌09年にはマイナス4370億円の赤字に沈んだ。

 普通に考えて慢心があったのではないか? 量産に次ぐ量産で、生産工程数の削減競争が加熱して、スポット溶接の数を減らすことが手柄になっていたとの証言もある。そういう空気は製品に明らかな悪影響を与えていた。

 「トヨタのクルマなんか死んでも乗るか」というカーマニアの意見は、この時代のトヨタ車が作り出したものなのではないかと思う。例えばフィールダーは、まずドライバーの頭の収まり位置がおかしい。フロントウィンドウの視界に対して目の位置が高すぎる。リヤシートの膝元スペースのカタログ数値を大きくしたいあまり、ドライバーを前に押し出し過ぎている。

 そのためシートポジションが実質の空間に対して異様にアップライトで、頭の高さが上がってしまっているし、その姿勢にとって困ったことにペダルオフセットが大きい。アップライトな姿勢だと、脚をひねってペダルを踏む動作が人体構造的に辛い。加えて、シートの出来も残念だ。いろいろな意味でフィジカルの環境が悪い。

 ステアリングはブッシュのコンプライアンスが大きすぎ、入れた舵角に対して横力が増えるにつれてタイヤの切れ角が減る。安全といえば安全だが、ステアリング系統が居眠りをしているのかと思うほど退屈。そのくせ真っ直ぐ走るのも不得意とくる。

 デビュー時はまだしも、技術進化を経て今やトヨタのダメなクルマを代表するようになってしまっている。しかも、それをTNGA世代と並べて売るというのだから、筆者はそこについてトヨタの正気を疑う。強く言うが「これでもトヨタブランドとして可とするなら、TNGAで良くなった部分なんて大した価値がない」と言っているに等しい。分かる人にしか分からない差だと思っているのか?

 筆者は、TNGA後、トヨタのクルマは圧倒的に良くなっていると考えている。全車を一斉にモデルチェンジするのは不可能なので、やむを得ずモデルによってまだらにならざるを得ないのは理解するが、新型カローラ・ツーリングのある今、フィールダーを併売するのは理解できない。黒歴史として早く封印すべきだと思う。どうしても値段が高いというユーザーには、プロボックスHVに乗用モデルを用意した方が誠意を感じる。

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