トップインタビュー

ディーカレットの「日本円」版リブラ計画 狙いを時田社長に聞く(2/3 ページ)

» 2019年10月23日 07時30分 公開
[斎藤健二ITmedia]

ーーこれまで円建てのステーブルコインが出てこなかった理由は?

 いろんなハードルがある。例えば三菱UFJ銀行が「MUFGコイン」という構想を出したのは3年前でかなり早かった。しかも銀行がやるということで、注目された。我々が事業を作ったときに、MUFGコインのようなものも取り扱う対象として考えられるし、銀行の外の担い手になれるのではないかと、銀行とも可能性について話をしていた。

 可能性としては早くからあった。しかし、(ステーブルコイン登場のハードルの)一つはそれに伴う適切な法律が整備されていないことにある。

 日本の場合、法定通貨建てのトークンは仮想通貨ではない、というはっきりした見解がある。Libraにしても、ドルや円のステーブルコインにしても、仮想通貨ではないことになる。仮想通貨交換業では扱えない。

 じゃあどこで扱えるのか。銀行なのか、資金移動業なのか。それぞれにおいて一長一短だ。ぴったり合った業がない。やろうと思えばできるが、やるだけでは意味がなくて、普及しなくてはいけないし、みんなが使えないといけない。こういう点で筋道が付けにくい。

 もう一つ(のハードル)が仮想通貨業界で起きた(流出などの)事件。法定通貨建て資産で何か問題が起きたら、仮想通貨どころではない。推測だが、(規制当局には)そういう危機感があったんだと思う。

ーー法律をクリアする目処は?

 一発ではいかないかもしれない。何段階か調整がありそうだが、できれば非常に大きな意義がある。ただLibraについて各国の当局が言うように、マネーロンダリングの問題など、いまの銀行など金融機関に課せられているような管理能力も問われる。

 ステーブルコインが誰でも扱えるものとして、何の免許もない人が交換するとなると、おかしなことになる。ただ取り扱える人を限定しすぎると、普通の人が使えなくなる。どこでどういう業でやれるかが、謎解きのような状態だ。

ーーステーブルコインが普及すると、金融決済はどう変わるのか

 最終的には、すべての価値交換ができる世界になる。クリプト(暗号)の技術を使い、ブロックチェーンに乗ったトークンですべての価値交換ができる世界。何が良いかというと、取引を後で照会できることだ。私があなたにいついつ渡しましたよね、ということがトレースできる。

 そして、仲介者をおかずにダイレクトに相手と取引できる。しっかりKYC(本人確認)が行われれば、オークションサイトで知らない人と取引するよりも、ダイレクトに取引しやすくなる。エコシステムの中に、相手をスコアリングするようなサービスが乗ってくれば、さらに取引しやすくなる。

 今のビジネスは、ものが届いても支払いが後だったり、月末締めの翌月末払いだったりする。クレジットカードの加盟店も、リアルタイムにお金が入ってこない。こうしたものがリアルタイム化する。モノが動いたときに支払いも終わり、確かに受け取ったという記録も残る。

 これによって、支払いや取引に関するかなりの手間が省力化できる。間違いもなくなるし、安心安全な世界になる。

 世界では法定通貨が、ドルをはじめ認められていて、だからみんなこれを使っている。今は、法定通貨をデジタル化することが、すんなりデジタル通貨の世界に入っていくために必要だ。

 このために、日本であれば円のステーブルコインが必要。これなしに、周りだけブロックチェーン化してトークン化していくことはない。

ーーステーブルコイン発行のイメージはどのようなものか?

 誰が発行機能を担うかは議論の余地がある。我々のようなところなのか、銀行や資金移動業なのか、はたまたLibraのような協会なのか。発行したい人が担保を入れて、銀行に入れてある1万円を担保に、1万円のステーブルコインを発行依頼する。例えば、A企業が発行すればAコインになるという使い方ができる。MUFGコインのように、発行体が銀行であれば銀行の色が付く。そうしたものも考えられる。

 我々はディーカレットという名前のコインを発行することにはこだわっていない。トレースする技術や、発行や交換をするためのプラットフォームが必要だ。トークンを安全に信頼できるものとして、しかも早くリアルタイムで交換できる、そういうプラットフォームの提供者になりたい。

IIJが中心となり、銀行や証券をはじめ日本を代表する企業がパートナーや株主として名を連ね、設立されたディーカレット

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.